グットイブニング・トウキョウ【あほの坂田】 (ページ4)

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hey jude ページ4

西が丘高校の正門に続く道には、都内でも名所と呼ばれるほどの桜並木がある。

細い道の片側に、昔ながらの商店が苔むした軒を連ねていて、その向かい側に、ぜんぶで100本近くの桜がずらりと並んでいるのだ。

樹齢100年というような堂々たる古木から、雪よりも儚げな花びらがとめどなく散りしきるさまを見ていると、日本人がこの気を愛し続けてきたわけがわかるような気さえする。

だから、今年は残念だった。

突然訪れた異常なほどの陽気に押されるように、桜たちはあっという間に満開になり、そしてたった一晩の嵐でこれまたあっという間に散ってしまった。

葉桜の風情を楽しむ暇もなかった。

結局私はどの部活にも入らず、帰宅部という扱いになった。

桜が随分と前に散って、緑の葉がさわさわと風が揺らしている。

今月は中間テストがある。
5月の最後の大会も終わり、3年生はすっかり受験モードだ。

長い桜並木の坂を下ると、私がいつも使っているバス停があった。

バスの来るちょっと前にいって、バスを待ちながら本を読むのが日課だった。

いま読んでいるのは、何年か前に話題になった恋愛モノだ。

別れた恋人からの、19年ぶりの電話をきっかけに、記憶を巡り、過去と現在を交差させていく物語だった。

冒頭の、「人は、一度巡り合った人と二度と別れることはできない。人には記憶があり、その記憶とともに現在を生きているから」という言葉がひどく印象深い。

こんな恋愛してみたいとはおもう。
いままで恋をしたことがない訳では無い。

ただ、この内気な性格のせいで、声をかけられないまま終わってしまったり、緊張して挙動不審になってしまったりと、上手くいった試しがなかった。

「…あれ、Aさん？」

いつものように本を開いて読んでいると、ふと頭上から声をかけられた。

びっくりして顔を上げると、そこには同じクラスの赤い頭があった。

「坂田くん？」

「あ、やっぱりAさんや！」

彼は人懐こい笑みを浮かべて、よ!と片手を挙げた。