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たしかに、私の知らない志麻もいるかもしれない。
もしかしたらその志麻は、とんでもなく凶暴で、さっきみたいに平然と相手を殴ったり、手にかけるかもしれない。でも、私の知っている彼には、そんな怖い要素なんてひとつもなかった。さっきだって、私のことを守ってくれた。
「少なくとも、私の知ってる志麻は、優しくていい人よ」
じわりと志麻の瞳が潤んだのが見えた。
「泣かないで」そう伝えたくて、彼の頭をそっと引き寄せる。すると、彼の肩が小さく震えた。それを見て、私はゆっくりと志麻の背中を撫でる。
「大丈夫………大丈夫よ」
彼の手がゆっくりと私の背中に回るのを感じた。その力は、さっきまで私を守って戦っていたなんて考えられないほど弱々しい。
彼は音もなく泣いていた。魔物でも涙は存在するらしい、なんてどうでもいいことを考えながら私はバカみたいに彼の背中をさすっていた。いまの志麻はまるで、すぐに砕け散ってしまいそうなガラスの壷に閉じ込められたみたいだった。
どれほどそうしていただろう。志麻はしだいに静かになり、かすかな肩の震えも治まっていた。
志麻の腕が離れていき、それと同時に彼の頭も動いた。
「もう、大丈夫なの？」
「………悪い」
彼は俯いたまま、それっきりまた所在なげに黙ってしまった。その次の言葉を待ったが、それにしては沈黙が長く、重くなりすぎてしまったので、妙な具合に会話が進まないように、自分から口を開いた。
「寝よっか」
しばらくのち、志麻はかすかに頷いた。私が立ち上がると、志麻も同じようにして私のあとを着いてくる。ベッドに潜り込むと、志麻がもぞもぞと隣に入ってきた。
けれど、いつもみたいに向かい合うんじゃなく、彼は私に背中を向けてしまった。それに少しだけ、寂しさを覚える。
「志麻」
「……………」
「ねぇ」
彼の背中に手のひらをのせた。志麻の体がぴくりと反応する。彼は私の手を避けるように身体を丸めた。
「………ごめん」
小さく謝罪の声が聞こえた。こちらの胸が痛くなるような響きだ。彼がどこか遠くへ行ってしまいそうな気がして、私は急に怖くなった。丸まった背中に抱きつくと、今度は振りほどかれなかった。
「志麻………やだ、こっち向いてよ………」
「…………」
「志麻のこと、怖くないから。だから………ここにいて」
初めて自分から彼にお願いをしたと思う。情けない声で、最後のほうは震えていた。
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りひと(プロフ) - みぃさん» コメントありがとうございます。お楽しみいただけて何よりです。がんばりますので、今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。 (2020年9月21日 22時) (
レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - 感情移入してしまうくらい本当に面白いです（ ; ; ）更新頑張ってください！楽しみに待っています！ (2020年9月21日 4時) (レス) id: d65a61624a (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - まーかーさん» コメントありがとうございます。がんばります！ (2020年9月12日 12時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
まーかー(プロフ) - 続編おめでとうございます！あぁ...すごい切ない展開...更新がんばってください！ (2020年9月11日 17時) (レス) id: f217387575 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» コメントありがとうございます。マルボロの話はずっとどこかで出したいと思っていたので私も嬉しいです。志麻さんの話はなかなか書く機会に恵まれず、完結している作品がないので、このお話は最後まで書けるよう頑張ります。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年9月8日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りひと
| 作成日時：2020年9月3日 21時
