月の船 ページ37
バスルームを暗いままにして、狭いバスタブにふたりで向かい合って浸かった。
男の人と一緒にお風呂に入るのは初めてだった。事の発端は、私がベランダにいる時に寒気がしたのでもう一度あったまりたいと言ったことから始まった。そうしたら志麻も一緒に入るといって、私を抱きしめて離さなかったのだ。
条件は、お風呂の電気をつけないこと。彼はそれに考えることなく頷いた。
お互いの顔もろくに見えていないけれど、私は膝を抱えて胸を隠しながら、
「今さらだけど、志麻はいいの？私で」
と、きいた。
「ほんま今さらやな」
「ゾンビになってから………これまでも、人間の女の人と付き合ったことあるの？」
「ないけど」
志麻がそういうと、お湯が揺れた。次の瞬間にはぐっと私は引き寄せられて体制を崩す。お湯の中で手を導かれた先には、志麻のいちばんの証拠があった。
志麻に促されるようにそれを握らされて、私は息を呑んで喉の奥で低く呻いた。経験のない少女のように慌てて手を引っ込めるなんて芸当は出来なかったが、志麻は空いた方の手で今度は私の腰を引き寄せると
「わかる？」
と囁いた。
「男はな、女と違って演技なんかできへん」
そっと、志麻のそれに指をからめてみる。するとそれはあっという間に硬さを持ち、彼の息もあがる。
「………志麻」
どちらからともなくキスをして、互いの存在を確かめるように触れ合う。顔を離すと、志麻が小さく笑った気配がした。
「ベッド、行こか」
私はこれから起こることに急に恥ずかしさを覚えた。返事をする代わりに、彼に縋り付くように抱きつく。
遮るもののない彼の体はしっかりとしていて、恐ろしいほど色気があった。
薄暗い部屋の中に、ふたつ分の吐息が漏れる。全部を事細かに見ることができない分、志麻は指で、唇で、舌で、時おり甘噛みをして確かめながら、私の全身をくまなく探索した。
お互い、これから先のことなんて考えもしなかった。
人間とゾンビだからどうだとか、ふたりで築く未来が有り得るのかどうかとか、そんなことはすべてどうでもよかった。
ただこの瞬間、相手を自分の中で満たし、その存在を憶えるだけでいっぱいいっぱいだった。
いままで、自分でも知りえなかったことまで、志麻に全部暴かれていく。たまらなかった。
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りひと(プロフ) - みぃさん» コメントありがとうございます。お楽しみいただけて何よりです。がんばりますので、今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。 (2020年9月21日 22時) (
レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - 感情移入してしまうくらい本当に面白いです（ ; ; ）更新頑張ってください！楽しみに待っています！ (2020年9月21日 4時) (レス) id: d65a61624a (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - まーかーさん» コメントありがとうございます。がんばります！ (2020年9月12日 12時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
まーかー(プロフ) - 続編おめでとうございます！あぁ...すごい切ない展開...更新がんばってください！ (2020年9月11日 17時) (レス) id: f217387575 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» コメントありがとうございます。マルボロの話はずっとどこかで出したいと思っていたので私も嬉しいです。志麻さんの話はなかなか書く機会に恵まれず、完結している作品がないので、このお話は最後まで書けるよう頑張ります。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年9月8日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りひと
| 作成日時：2020年9月3日 21時
