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「志麻」
「ん？」
どうして、と言おうとして、少し迷った。それを言うには、私は志麻に参りすぎているのだ。
「ううん、なんでもない」
志麻が分からない。彼のキスはいつも唐突だ。けれどもらそういう言葉を聞いたこともないし、もしかしたら、ただ欲を発散したいが為かもしれない。もしくは、私が寂しそうに見えて慰めようとしたのかもしれない。
「煙草、まだ吸う？」
「………やめとく」
吸う、と言ったら彼はまたキスをしてくれるのだろうか。胸にわずかに残る淡い期待を押し込めて首を横に振って志麻から離れた。
「なんや、残念」
志麻はまったく残念そうに見えない声で言って
「ほら、寒いやろ。このままだと、また風邪ひくわ」
と私をリビングに促した。
「大丈夫。もう少し、ここにいる」
私はもういちど首を横に振った。少し1人になりたかったのだ。これ以上、志麻と一緒にいたら、耐えられなくなりそうだった。
外の風にでもあたって、熱にくすぶる心も冷まさなければならない。昇ってきた朝日は弱々しい日差しであたりを照らしている。まだ雪が降る気配はないが、風は冷たい。志麻も鼻の頭が赤くなっていた。
「なんで？」
「え？」
「そらるって男のほうがええの？」
「どうして急にそらるが出てくるのよ」
志麻は一瞬、言葉を選ぶように目を逸らし、
「昨日、お前をここまで送ってきたの、あいつだったから」
と、ぶっきらぼうに言った。
「えっ………そらるに会ったの？」
私が驚いて聞き返すと、志麻は不機嫌丸出しの声で返事をする。
「だから、そう言うとるやろ」
「なにか、聞かれた？」
そらるは、私に男兄弟がいないのを知っている。
「なんも。でも、あいつ、俺のことAの彼氏だと思っとるわ」
唐突なカミングアウトに、私は「はぁ？」と思わず叫んだ。一体全体、どうしてそうなったのだろう。そらるには志麻の話は一切していなかったし、会社で広まればどうなることか………
「どういうこと？」
「あいつ、俺が彼氏だっていう前提で話しとったし、俺もそれ否定せんかったから」
志麻は平然とそう言ってのけた。まるで、そうあることが自然だとでも言うように。
「別にええやん。彼氏と住んでたって。それ以上詮索はされてへんし」
な？と口の端を持ち上げる志麻はいたずらっぽく、けれども色気があった。
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りひと(プロフ) - みぃさん» コメントありがとうございます。お楽しみいただけて何よりです。がんばりますので、今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。 (2020年9月21日 22時) (
レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - 感情移入してしまうくらい本当に面白いです（ ; ; ）更新頑張ってください！楽しみに待っています！ (2020年9月21日 4時) (レス) id: d65a61624a (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - まーかーさん» コメントありがとうございます。がんばります！ (2020年9月12日 12時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
まーかー(プロフ) - 続編おめでとうございます！あぁ...すごい切ない展開...更新がんばってください！ (2020年9月11日 17時) (レス) id: f217387575 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» コメントありがとうございます。マルボロの話はずっとどこかで出したいと思っていたので私も嬉しいです。志麻さんの話はなかなか書く機会に恵まれず、完結している作品がないので、このお話は最後まで書けるよう頑張ります。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年9月8日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りひと
| 作成日時：2020年9月3日 21時
