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「気持ち悪い………」
「ちょ、俺に吐かないでよ」
「ん………大丈夫」
めずらしく泥酔した同期を横目に、そらるは大きく息をついた。
彼女と出会って8年。
そりゃあ、20代半ば辺りまでは彼女はモテた。そらる自身、その時期は遊んでいたこともあってその争奪戦には加わらなかったが、Aは引く手あまただったのだ。
理由は単純明快だ。明るくて、一生懸命で、仕事もできる。それに周りの気配りも忘れない。モテないはずがなかった。
けれど、Aは何を拗らせたのか仕事一筋になってしまった。もともと人の入れ替わりが激しい会社だったし、周りが結婚していくのもあって、残った同期はこいつだけだ。
だからと言って、そらるとAの関係に変化があったわけでもない。むしろそういうことも全て乗り越えて、ここ数年で「同期」もしくは「戦友」としてのポジションに落ち着いてしまったのだ。
距離が開いたわけでも、縮まった訳でもない。
けれど、いまさらこの関係を崩す勇気もない。
酔っ払って、カツカツと音を鳴らすハイヒールも千鳥足でふらふらだ。さらにもたれ掛かって体重をかけてくるAはきっと、自分の気持ちなど露ほども知らないのだろう。
こうやって凭れてくるのも、同期としての信頼関係ゆえだ。そもそもAとこうやって軽口憎まれ口を叩きあう相手もそらるくらいだし、それ以外は彼女の顔色を見ながら、もしくは仕事を押し付けるために話に来る奴が多い。
それは、そらるにとっての誇りだった。自分だけが彼女の仮面を剥ぎ取って楽にさせてやれるのだという自信だった。
「部屋ってあのまんま？」
「んー、そう」
唯一の同期なだけあって、そらるとAはよく2人で飲みに行く間柄だった。さすがに深夜にひとりで帰すのも気が引けて、マンションの前まで送っていったことが何度かある。だから知っていたのだ。
「送り狼になるなよ」という先輩の冗談が、そんなつもり全くなかったのに、エントランスをくぐった瞬間、急に現実味を帯びてくる。
いつもはマンションの前だったが、今日は部屋まで送るのだ。ふたりきりのエレベーターが上がるのと比例して、そらるの心拍数も上がっていく。
そういう展開もあるのかと、妙な胸騒ぎを覚えながら、Aが部屋の鍵をおぼつかない手つきで開けるのをじっと見つめた。
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りひと(プロフ) - みぃさん» コメントありがとうございます。お楽しみいただけて何よりです。がんばりますので、今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。 (2020年9月21日 22時) (
レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - 感情移入してしまうくらい本当に面白いです（ ; ; ）更新頑張ってください！楽しみに待っています！ (2020年9月21日 4時) (レス) id: d65a61624a (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - まーかーさん» コメントありがとうございます。がんばります！ (2020年9月12日 12時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
まーかー(プロフ) - 続編おめでとうございます！あぁ...すごい切ない展開...更新がんばってください！ (2020年9月11日 17時) (レス) id: f217387575 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» コメントありがとうございます。マルボロの話はずっとどこかで出したいと思っていたので私も嬉しいです。志麻さんの話はなかなか書く機会に恵まれず、完結している作品がないので、このお話は最後まで書けるよう頑張ります。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年9月8日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りひと
| 作成日時：2020年9月3日 21時
