限り月 ページ11
あの夜のあと、驚くほど私たちの関係は変わらなかった。
今まで通り、朝は寝ぼけながら「行ってらっしゃい」と言って見送られ、仕事をして、疲れて帰ってきたら「おかえり」抱きしめてくれて。
夕飯後は志麻が出かけていくのを見送りながら一服をして寝る。朝起きれば、志麻が隣に眠っている。
志麻はあの夜のあとから、どこかぎこちない様子だった。なにかを考え込むような顔をすることが多くなり、話しかけてもすぐに返事が返ってこないこともしばしばだった。
絶望的だった契約も前のターゲット企業の条件には少し劣るものの代わりが見つかり、新規の契約が結べた。それでようやく上司の機嫌も直り、年末繁忙に向けた数値達成の見込みがたった。万事解決とまでは言わないが、それなりの出来で終わりを迎えることができたのだ。
とはいえそこまでやり切って気が緩んだのか、社内では風邪が大流行した。インフルエンザじゃないだけマシだが、この忙しさで人員が欠けるのは厳しいなんてもんじゃない。
かくいう私も例外ではなかったようだ。
「A、大丈夫？死にそうな顔してるけど」
仕舞いにはそらるにさえ心配される始末だ。暖房はきいてるはずなのに、寒くてしかたない。
「大丈夫………」
「大丈夫そうな顔じゃないけど。とりあえず、定時に帰れば、今日」
のろのろと顔を上げて時計を見れば、定時まではあと1時間だった。ガクガク震えながらマスクをしてパソコンに向かってる私を見て、そらるが大きく息を吐いたと思えば、バサっとなにかがかけられた。
「これ………」
ネイビーの上着はそらるのジャケットで、私には大きいそれは暖かだった。
「帰るまでそれ羽織っとけば」
「………ありがと」
そっけない言葉の中に見える優しさに口元がほころぶ。出現率はレアなそらるの優しさに少しだけ体力ゲージが回復した気がした。
彼の言葉に甘えて、ジャケットを羽織ったまま残りの仕事に取り掛かる。最近は体調を崩すこともなかったから、頭がグラグラする感覚も気持ち悪い。
「おい、体調悪いんちゃうか。今日、休めば？」
起き抜けにおでこに手を当てて心配してくれた志麻の言葉を無視して
「大丈夫、大丈夫。熱もないし！」
と身体の気だるさに見て見ぬ振りをして家を出た自分を思い出した。かと言って、いまの状況で簡単に休めばあとから何を言われるか分からない。定時であがって、病院に寄ってから帰らなければ。
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りひと(プロフ) - みぃさん» コメントありがとうございます。お楽しみいただけて何よりです。がんばりますので、今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。 (2020年9月21日 22時) (
レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - 感情移入してしまうくらい本当に面白いです（ ; ; ）更新頑張ってください！楽しみに待っています！ (2020年9月21日 4時) (レス) id: d65a61624a (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - まーかーさん» コメントありがとうございます。がんばります！ (2020年9月12日 12時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
まーかー(プロフ) - 続編おめでとうございます！あぁ...すごい切ない展開...更新がんばってください！ (2020年9月11日 17時) (レス) id: f217387575 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» コメントありがとうございます。マルボロの話はずっとどこかで出したいと思っていたので私も嬉しいです。志麻さんの話はなかなか書く機会に恵まれず、完結している作品がないので、このお話は最後まで書けるよう頑張ります。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年9月8日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りひと
| 作成日時：2020年9月3日 21時
