序 ページ1
いつもよりも瞼が重い。
昨日泣きすぎたせいなのか、二日酔いのような頭痛に顔を顰めた。
ぐるりと体を反転させれば、紫が視界いっぱいに広がる。魔法を解いたのか、志麻はもともとのゾンビの容姿に戻っていた。それに、なんとなくほっとする。
くかーっとよだれを垂らして寝こけているゾンビなんてなかなか見れるものじゃないな、と思うとなんだかおかしくて、くすりと笑みがこぼれた。
乱れている髪を掬ってやると、彼は「んん」と唸り、鬱陶しそうに腕を上げた。振り払われるかと思って慌てて手を引っ込めたが、彼の手はそのあとしばらくそこで固まり、やがて私の上に乗っかった。
引き寄せられて、志麻の胸に頰があたった。腕が背中に回り、強く抱きしめてくる。白い綿シャツを通して私の頰に志麻の体温と鼓動が伝わる。ゾンビだと言うけれど、人間と同じように心臓が動いている。
「………A」
志麻が低い声でささやいた。
「なに？」
聞き返してみたが、返ってくるのは静かな寝息だけだ。ときどき、もごもごと何かを口の中で言っているのが聞こえるが、言葉としては認識できなかった。
そろそろと顔をあげれば、志麻は口を半開きにしていた。間抜けな寝顔はまるで子供みたいで、昨晩のしっかりとした、優しい大人な志麻は夢だったようにも思える。
そういえば何時だろうと思って身動きをとろうとして、出来なかった。志麻が抱き枕のように強く抱き締めてきたのだ。遮光カーテンの向こう側はまだ薄暗い。だが、冬だからもう起きる時間も近づいてきているかもしれなかった。
「志麻、ちょっとどいて」
起こそうと思って声をかけるも、返事はない。随分と深く眠っているのだろう。
「ねえ、志麻ったら」
先程よりも強く言えば、彼は小さく唸り声をあげた。もうひと押しだ。
「志麻、ねぇ、志麻ってば！」
「うっさい………」
うざったそうに顔をしかめて、志麻は私を抱きしめる腕を強めた。
「志麻、退いて。仕事行かなきゃ」
そこまで言って、志麻はうっすらと目を開いた。
「………しごと」
「そう、仕事。だから退いて」
「いやや」
志麻はゆるくかぶりを振った。
「なんでよ」
「今日、土曜日」
「え？」
「だから、土曜やろ。今日」
志麻は片手を伸ばして私のスマホをとると、こちらに画面を向けてきた。ロック画面に表示される日時には、いつも起きるのと同じ時間。けれども、たしかに土曜日だった。
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りひと(プロフ) - みぃさん» コメントありがとうございます。お楽しみいただけて何よりです。がんばりますので、今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。 (2020年9月21日 22時) (
レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - 感情移入してしまうくらい本当に面白いです（ ; ; ）更新頑張ってください！楽しみに待っています！ (2020年9月21日 4時) (レス) id: d65a61624a (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - まーかーさん» コメントありがとうございます。がんばります！ (2020年9月12日 12時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
まーかー(プロフ) - 続編おめでとうございます！あぁ...すごい切ない展開...更新がんばってください！ (2020年9月11日 17時) (レス) id: f217387575 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» コメントありがとうございます。マルボロの話はずっとどこかで出したいと思っていたので私も嬉しいです。志麻さんの話はなかなか書く機会に恵まれず、完結している作品がないので、このお話は最後まで書けるよう頑張ります。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年9月8日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りひと
| 作成日時：2020年9月3日 21時
