Chinese redbud ページ10
私が渉さんと話すようになったのは、営業同行だった。
初めての営業同行のとき、設計部長に連れられておどおどしながら営業部に行ったのが始まりだった。
花形部署と呼ばれるだけあって、そこには仕事ができそうな人しかいなくて(少なくとも新人の私にはそう見えた)、ミスをしないようにと思えば思うほど心臓がばくばくと鳴った。
「浦田」
部長が呼ぶと、その人はパッと顔を上げてすぐに席を立った。
たったそれだけの仕草なのに、私には他の人よりも違った色に見えた。皆きらきらしているのだけれど、その人だけは、新緑の葉っぱから雫が落ちるような瑞々しさというか、初夏の爽やかな風のような色に見えた。
さらさらの茶色い髪に、彼の雰囲気と同じ新緑を思わせる瞳。
近くに来た彼の第一印象は、まるで春風みたいな人、だった。
彼は私を見るなり、
「設計部の新人さんですか?」
と部長に言った。部長が「うむ」と頷いたのを確認すると
「営業部の浦田です。よろしく」
くしゃりと笑った顔に、心臓がひとつ飛ばして跳ねた。
時間が、止まったんじゃないかと思った。
柔らかであたたかい笑顔に、釘付けになった。
思わず見とれてしまっていたのだろう。
言葉もなくじっと見つめていた私に、彼は少しだけ不思議そうな顔をして首を傾げた。それを見てハッと我に返り、慌てて頭を下げる。
「せ……設計部の、Aです。よろしくお願いいたします」
「で、今度から営業部と同行になるんだが………浦田。Aの面倒をみてやってくれないか」
「ああ、いいですよ。ちょうど、
営業部と設計部はよく一緒に仕事をするらしく、設計部の部署内研修が終わると、営業同行だと聞かされていた。そこで営業部の先輩から現場での打ち合わせの仕方や立ち振る舞いなどを学ぶのだ。
部長たちが話す横で、私はぽうっと浦田さんの横顔を眺めていた。
「む……そうか。助かる」
「設計部の新人は、この子だけですか?」
「いや、もうひとりいるんだが、あいつは月崎に頼んである」
「そうっすか」
そういうと、浦田と名乗った彼はまた私の方を向く。私とあまり変わらない背丈で、ほとんど目線は同じだ。
「じゃあ、明日から俺と営業回ることになるから、よろしくね」
この人が、私の育成担当の先輩なんだ。
眩しいくらいの笑顔に、「よろしくお願いします」の言葉は少し失敗した。
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あ(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...?何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します!めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です!更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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