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とにかく、センラはとんでもなくモテる。
けれども告白されて付き合ったかと思えば数週間後には別れていることがほとんどだったし、最近に至ってはそもそも特定の誰かと付き合うこともしなくなった。だから、センラの周りにはそういう付き合いの女の子がたくさんいる。
そもそも、センラは彼女なんて作らなくても、欲を満たしてくれる相手は探さなくても寄ってくるのだ。けれどそのうちの何人かは、センラと本当に付き合いたくて教えてもいない自宅の前で待っていたり、彼女になれたと勘違いするような子がいると本人から聞いたことがある。以前、センラは別の子に平手をくらった経験があるから、そういう面倒そうな子とは距離を置いているだろうと思っていたが、そうでは無かったらしい。今の電話相手は、そのうちの一人なのだろう。
そういうことがあると彼は私を呼んで傷を埋めるのだ。
明らかにいい雰囲気ではない電話に、盗み聞きしているような感覚になり私はスマホを手にとって
「シャワー浴びてくる」
と書いてセンラに見せる。彼が微かに頷いたのを見て、私は毛布をセンラに被せてその場から逃げるように風呂場へ駆け込んだ。
熱いシャワーを浴びながら、私は先ほどの電話を思い出していた。私もいつか、渉さんにあんな風に思われてしまうのだろうか。そう思うと、その場にいることができなかったのだ。気を紛らわすように曇った鏡を手で拭うと、胸の谷間に赤い何かが付いているのが見えた。下を向いて確認すれば、そこには噛み跡に近い色になっている。
「どうしたんだろ、センラ」
今までセンラが私にこうやって痕をつけたのは初めてで、いつになく不安を覚える。
けれど、センラが本気で私を好きだとは思えない。今だっていろんな女の子と関係を持っているようだし、私と渉さんの関係にだって一番最初に知った時こそ口を出していたが、今となっては何も言ってこない。詮索して介入するほどの相手でもないということの表れだろう。
さみしい、なんて言える相手はきっと、相手も自分と同じだとわかっているのだ。
だから私とセンラは長くこういう関係を続けられているのだろう。お互い、寂しいから。寂しくて、不安で、どうにかなってしまいそうな時があるから。そしてその感覚は、私たちに共通するものだから。
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あ(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...?何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します!めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です!更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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