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準備をして部屋を出ると、アパートの前に見慣れない車が止まっていた。
ハザードランプが点滅している車を不思議に思って見ていると、運転席からラフな格好をしたセンラが出てきて
「行くで」
とだけ言った。荷物をつけて車に乗れば、センラの付けている香水の匂いがする。
彼は何も聞かなかったし、私も何も話さかなった。静かに発進した車は住宅街を通り抜けていく。彼が前に好きだと言っていたロックバンドの曲が小さなボリュームでかかっていて、そこでようやく、肩の力が抜けた。
どうやら、自分で思っていた以上に体がこわばっていたらしい。
息を吸って、吐いて。吸って、吐いて。
うまく吐き出せなかった息も、少しずつ正常に戻っていく。
ちらりと運転するセンラを盗み見ると、ラフなスウェットに色のあせたジーンズ、あとは黒い縁のメガネを掛けている。家でゆっくりしていたのだろう、髪もセットされていなかった。
「ごめんね、休みなのに」
「ええよ。部屋でゲームしとっただけやし」
センラは薄く笑って、車を止める。前を見れば赤信号だった。右手が急に暖かくなって肩が跳ねた。
「車だから、これで許してな」
すぐ横から、センラの声。彼は私が何を求めているのか分かっている。何も聞かなくても、分かっているのだ。
だから、センラのそばにいるのはとても楽で、心地いい。聡い彼のことだから、きっとどうやったら私が落ち着くのかも知っているのだろう。
駐車場に車を停めると、センラが私の荷物を攫っていった。「自分で持つよ」という前に、センラは私の手を握った。ふっ、と少しだけ振り返って、目を細めた。
エレベーターに乗って、彼が部屋の鍵を手早く開けた。私を招き入れるように、
「おいで」
その優しい声に安心して、ずっと我慢していた涙がほろりとこぼれた。固くなっていた心がほぐれていくように涙が流れて、私は慌ててうつむいた。
彼は、そんな私に呆れることも笑うこともしなかった。センラは黙って玄関前で立ち尽くす私の手を引いてリビングへと導いていく。彼の背中を目で追っていると、センラはようやく体ごとくるりとこちらを振り向いた。
「もう、大丈夫やから」
甘やかすような言葉と共に、センラの胸に引き寄せられた。彼にしがみついてセンラの胸に顔を押し付けあてる。
安心する匂い、体温、鼓動。
それでも、まだ足りない。
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あ(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...？何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (
レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します！めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です！更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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