. ページ30
「また、うらたん?」
「わっ!」
渉さんとの電話の余韻に浸っていると、すぐ後ろから不機嫌そうな低い声が飛んできた。驚いて声を上げると、お腹にぎゅっと腕が回される。
「なに、うらたんで頭いっぱいで俺のこと忘れとったん?」
「そんなこと、ない」
「そんなことあるやろ、今の言い方は」
こっち向いてと言われて素直に反転させると、センラが息を飲むのがわかった。
「なんで泣いてるん」
「………なんでもないの」
そう言って強がってみるけれど、センラには効果なしだった。大きな手のひらが私の頬を包み込んで、目尻にたまった涙の残りをそっと拭う。
「泣いてええよ。俺の前でくらい、強がらんでええから」
泣くつもりなんてなかったのに、その言葉を合図に張り詰めていたものが一気に緩んで、私の目からはぽろぽろと雫がこぼれ落ちる。
センラは呆れもせずに私の涙を拭いながら、そっと抱きしめた。
「声、聞けてよかったな」
私の電話する声から察したのだろう。センラの言葉に、私は小さく頷く。
「嬉しくて泣いとるん?それとも逆?」
「………どっちも」
電話を貰えて、声が聞けて嬉しかった。泣けるくらい、嬉しかった。
それと同時に、私はこんなにも寂しいんだと自覚させられた。けれど、こういうことを分かっていて彼との関係を求めたのは私だから、そんなわがまま言えるわけがなくて。吐き出せないままいるのが、ずっと苦しくて、寂しい。
「うらたんの前では、泣けへんの?」
「あの人の負担に、なりたくないから」
するとセンラは自分で聞いてきたくせに興味しそうに「ふぅん」とだけ相槌をうった。今度こそ呆れられてしまっただろうかと思って俯いていると
「なら、俺の前ではせめて、素直でおって。泣きたいときに、泣いてええから。俺やったら、負担になってもええやろ?」
まるで口説き文句のようなその甘い言葉を急に囁くもんだから、すこしおかしくなって笑みがこぼれた。それと同時に、ほとんど止まりかけていた涙の最後の雫が落ちていく。
「………ありがと」
包んでくれる体温はひどく暖かくて、心地よい。センラの胸に頬を擦り寄せれば、彼はそっと抱き締め返してくれた。
.
488人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あ(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...?何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します!めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です!更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ