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Dutchman's pipe cactus ページ14

身体の熱が落ち着き始めた頃、渉さんそうっとベッドを抜け出した。


抱きしめられていた熱がすっとなくなって、とたんに私は寒さを覚える。


もうお別れなんだと言うことが分かっても、私はそれを引き止めることも寂しいと言うことも叶わない。


私の立場では、そんなこと言えるわけもないのだ。


暗がりの中で、彼が白いシャツを羽織るのをベッドの中から眺めていると、渉さんはくるりと振り向いて


「じゃあ、帰るから」


と申し訳なさそうに眉を下げた。


ベッドのまわりに散らばっていたスラックスとジャケットを身につけると、渉さんはこの部屋に来た時と同じ格好になっていた。


「渉さん」


「ん?」


そっとベッドから腕を伸ばせば、彼は小さく笑って私のところまで戻ってきた。頭のほうに手を向けると、


「どうした?」


「髪………」


そう言うと、直してとでも言いたげにずいっと頭をこっちに差し出してくる渉さんに笑いながら、さらさらとした手触りのミルクティ色の髪を手櫛で整えた。


彼の髪は柔らかくて、手触りがよくて、必要以上にそうしていた。


「これで大丈夫です」


「ありがと」


渉さんはふふ、と擽ったそうに目を細める。お返しと言わんばかりに頭を撫でられれば、身体の熱が奥の方から燻ってきてしまう。


それを隠すように顔をシーツに埋めると、ぎゅっと一瞬だけ抱きしめられて、すぐに離れた。


「じゃあ、またな」


渉さんはそう囁いて、部屋を出ていってしまった。


がしゃん、と鍵がポストに落ちる音がして、それから物音はぴたりとなくなった。


彼の居なくなった部屋は、ひどく冷たくなってしまったように感じて、私は彼の残り香をかき集めるようにシーツを抱きしめた。





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(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...?何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します!めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です!更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りひと | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年8月17日 20時

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