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Aは悪魔でも魔物でもなければ、幽霊でもない。ましてや天使でもない。
戦えば傷つき、簡単に死んでしまう。
しかし彼女は、ルシファーにも屈せず、いまここにいる。それが、センラには奇跡のように思えた。
Aさえいてくれれば、自分が忌まわしい世界に身を置いていることを、忘れられるような気がした。
一方、Aもただ黙って海を見つめることしかできなかった。
ルシファーと共に消滅するはずだった。
それなのに、いま、生きている。
4人が来てくれたから。だから助かった。私自身は、結局なんの役にも立たなかった。センラの手は悪魔らしくひんやりとしていたが、どこか暖かだった。
…………この先、どうなるのだろう。
そのことだけが、頭を埋めつくしていた。本来ならば死ぬはずだった自分は、こうしていま生きている。けれど、ルシファーを消滅させて4人を守るという、自分の役目のようなものがなくなってしまった。これから、何を目的に生きていけばいいのだろう。
「……………センラさん」
「ん？」
返ってくる声は、どこまでも優しい。
「あの…………」
言いにくそうに口ごもると、彼は「ゆっくりでええよ」と子どもをあやすような口調で言った。Aは深呼吸をしてから、意を決してセンラの方を見る。彼もまた、こちらを見つめていた。
「……………」
彼の目を見た途端、何も言えなくなってしまった。
どうして、そんな顔をするの。
どこまでも優しくて、まるで、まるで……………
思わず顔を逸らすと、センラが横でくすりと笑った気配がした。
「…………………じゃあ、俺から話してもええ？」
「はい」
「Aは、"ナナ"って人、知っとるやろ？」
息を呑んだ。センラの口からその人の名を聞くのは2度目だった。
「…………どうして」
震える唇からこぼれた言葉は、ひどく掠れていた。センラはそれすらも分かっているかのように、
「それって………Aの、お母さん？」
と言った。
しばらく迷った末に、Aはかすかに頷いた。センラは「そうか」と小さく返事をしただけで、それっきり話さなくなってしまった。
規則正しい波音が、流れる時間をゆっくりに感じさせる。
どうして、母の名を知っているのだろう。
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ちょこ - とてもよかったです！その後話がもっと欲しい！ (2022年6月26日 23時) (
レス) @page23 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - 気づいたらこのお話に飲まれてました。とても素敵なお話をありがとうございました。他の作品も読みます！(*'▽'*) (2022年6月20日 21時) (レス) @page23 id: 020978a023 (このIDを非表示/違反報告)
ぷ(プロフ) - 読むたびに世界観に飲まれていきました。気付いたら最後まで読んでいました。素敵な世界を覗けてよかったです。ありがとうございました。 (2020年9月10日 20時) (レス) id: 5dd39aece4 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - 水無。さん» コメントありがとうございます。お楽しみいただけたのであれば何よりです。今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。 (2020年9月4日 23時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
水無。(プロフ) - ことで話にのめり込みやすかったですし、特に坂田さんの初々しいしい恋の表現の仕方には毎回きゅんきゅんさせられました。りひとさんの作る作品が大好きです。新作も前の作品も漁ってたくさん読みたいと思います。素晴らしい作品をありがとうございました！ (2020年9月3日 21時) (レス) id: 2fdfcf242b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りひと
| 作成日時：2020年8月1日 11時
