グットモーニング・トウキョウ【センラ】 (ページ10)

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周りにいる主婦と同じように、大量の食料をカートに入れながら、今日の夕飯の献立を考える。

土日のうちに平日分の料理も作り置きして冷凍庫にストックしておくのが彼女の常であった。

大学進学と同時に孤児院を出た彼女は、奨学金を借りながら、全ての生活費を自分一人でまかなわなければならなかった。

節約料理もその中で身につけた『処世術』であった。

今日はキャベツが特売だった。
だが、一人暮らしにひと玉は多い。
さて、Aどうしたものかと頭を悩ませた。

「あれ、Aちゃん？」

懐かしい声が背後から自分の名を呼んだ。

顔だけをぐるりと後ろに向けると、懐かしい紫の頭に泣きぼくろ。

「…志麻さん？」

「やっぱAちゃんやん！久しぶりやなぁ！名古屋にいまおるん？」

彼は昔馴染みだと確認すると、嬉しそうに駆け寄ってきた。

彼は大学時代アルバイトをしていたバーの常連だった。
いつもふらっと来ては酒を飲み、彼の気分がいい日には鼻声を歌っていたのを思い出す。

「まあ、仕事でこっちに来たんですよ」

彼の手がAの頭に乗り、そのままわしゃわしゃと掻き回す。

ああ、こんなところも変わってない。
彼は私の頭を昔からこうやって少し乱暴に撫でる。久々にされたそれに、懐かしくてAは思わず目を細めた。

「にしても大人になったなぁ」

もう社会人かぁ、と彼は言う。

「あれ、そういえば志麻さんは東京じゃないんですか？」

Aの通っていた大学は東京の郊外にあり、そこから都内に向けて5駅ほどいったところにアルバイト先のバーはあった。

彼は都内在住だったはずだ、と昔の記憶を掘り起こす。

「んー？知り合いが名古屋におってな、遊びに来たんよ」

そんなことより、LINE交換しよ！と彼はスマホを取り出した。

再会を喜んでくれる彼に悪い気はしなかったのでAも同じようにカバンの中から取り出す。
QRを交換し終えたところで、志麻くん、とおそらく先程の彼の知り合いと言うやつだろう、から声がかかった。

おお、と志麻が返事をする声に釣られて、Aも声の主に顔を向ける。

「「え、」」

そこには買い物かごを持った職場の上司が驚いた顔をして立っていた。