グットモーニング・トウキョウ【センラ】 (ページ14)

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乾杯という掛け声とともに缶を鳴らしたのはつい先程のことだった。

しょうゆ味の鍋は好評だった。
志麻くんがカゴに入れた大きなキャベツも、鍋だけで半玉使った。

「Aちゃん、ちゃんと野菜も食べるんやで〜」

隣では兄だからといいながら、志麻くんが甲斐甲斐しくAの世話を焼いている。

Aはちょっと鬱陶しそうな顔をするも、まんざらでもないようで大人しく盛られた分を口に入れている。

それを少し面白くなさそうにセンラは眺めていた。

ただ単に、昔の常連客と店員、という関係ではないのはよくわかった。
志麻くんがAを妹のように思っていることも。

ただ単に、彼は志麻から滲み出る「俺はこいつのこと分かってるから」という振る舞いが気に入らなかった

そこには、今の彼女のことは自分の方が知っているはずだとか、自分ももっと近づきたいだとか、そんな子供じみた反発心と嫉妬心があるような気がする。だけどそれを認めてしまったらいけないような気もして、もやもやとした気持ちが胸に広がる。

それをかき消すように、照り焼きを放り込んで、ハイボールで流し込む。

「あの、お口にあいませんか？」

はっと現実に引き戻されると、Aの瞳とぶつかった。

彼女と目が合うのは、久々だと思った。
もしかしたら、初めてかもしれない。

ゆらゆらと、瞳が揺れていた。

それは、不安げで、儚げで、ちょっとの力でどこかに飛んでいきそうだった。

「んー？うまいで」

誤魔化すように微笑むと、彼女はそうですか、と言うと、彼女は立ち上がりビールとハイボールの追加を持ってきた。

あと1口になっていたビールの350mm缶を飲み干すと、新しい物をAが渡してくれる。

こういう気配りのできるところが、他の上司からも評価の高い点なのだろうと思う。

新しい缶に口をつける。

時計は23時を指していた。