エピローグ ページ46
センラが目を覚ましたのは、ちょうど太陽が1番高く差し掛かる頃だった。
ひさしぶりに床で寝たからか、身体中が悲鳴をあげている。
隣では、Aが小さい寝息を立てて眠っていた。
いつもは彼女のほうが先に起きてしまうので、Aが眠っている姿をきちんと見るのはこれが初めてだった。
寝顔はまだあどけなさを残していて、陽の光が彼女の輪郭をそっと包んでいた。
Aの寝顔を見ていると、センラはなんとも言えない幸せな気持ちがふつふつとわいてくる。
「…かわええなぁ」
小さく呟いたつもりだったが、静かな部屋には十分だったようで、センラは恥ずかしくなった。
誤魔化すようにもぞもぞと起き出して、風呂に向かう。
あのまま彼女の寝顔を見ていたら、そのままキスしてしまいそうで、自分が信用出来なかった。
シャワーから戻ると、志麻とAも起きていた。
楽しそうに話をしている。志麻がなにかを言うと、彼女は耳まで顔を真っ赤にした。
それはいままでセンラが見た事もない表情で、すこしむっとする。
「なに、話してたん？」
おはようといいながら、2人に近づくと、Aは焦ったようにさらに顔を赤くした。
「んー？センラには秘密やんなー？」
志麻くんがしたり顔でそう言うと、Aは私もお風呂行ってくる!と逃げてしまった。
「…なあ、センラ」
彼女が逃げていった扉を見ながら、志麻は言った。それを追うように、センラもその扉を見つめる。
しばらくすると向こう側から、シャワーの音が聞こえてくる。
「ん？」
「あいつのこと、大切にしてやってな」
「…当然やろ」
視線はむこうに向いたままだったが、いまは兄としての志麻くんの顔であることに気づくと、センラはしっかりと頷いた。
窓の向こうで、少しずつ桜が開花を始めていた。
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作者名：りひと
| 作成日時：2019年11月3日 23時
