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「A、」
もう一度、彼が私の名を呟いた。
少しだけ掠れていて、それが妙に色っぽい。
彼に呼ばれる私の名前は、こんなに甘い響きをしていただろうか。
両頬に添えられた手の力は強くないのに、体が固まってしまったように、うらたさんの瞳から目を離せない。
動物の鳴き声だけが聞こえていて、ほかはうるさいほどに跳ねる私の心臓の音だけだ。
「痛っ……」
急に、私の顔を包んでいた両手がぎゅっとつねられた。
「…ったく、流されてんじゃねーよ」
うらたさんは私から顔を離すと、呆れたような口振りで両手の力を抜いた。
つねられていた両手が離れると、うらたさんはそのまま私から1歩離れる。
柵の向こう側にいるたぬきは変わらずこちらを不思議そうに見つめていた。
「お前、無防備すぎ」
私は未だに動けずにいた。
ドッドッドッ、と心臓の音が耳元で大音量でなっているみたいだ。
「A？」
「っはい」
裏返った声で返事をして、私はあわてて口を押さえた。
あたふたする私の様子に、うらたさんがふっ、と吹き出すのが聞こえた。
「なに、期待してた？」
うらたさんの意地の悪い声が降ってくる。
「っ、ちがいます！」
「あ、お前がでかい声出すから、たぬき逃げちゃったじゃん」
いつの間にか、たぬきは檻の奥のほうに行っていて、うずくまって目を閉じていた。
その姿になんだか力が抜けてしまって、そうしたら心臓の音もすっと静かになっていった。
「お前、結構モテるんだからな。マジで気をつけろよ」
「そんなんだから、目が離せないんだけどさ」とうらたさんは私をこづいた。
「ええー、そんなことないですよ」
「じゃあ、キッチンの谷中、お前のこと狙ってるの知ってる？」
「え？」
「ほら、知らないじゃん。そうやってぼけっとしてると、あっという間に食われちまうんだからな」
うらたさんは、ちょっと怒ったような顔をした。
「………すみません」
「謝ることじゃないんだけどさ、」
そこで彼は言葉をきると、「あー、もう！」と頭をガシガシとかいて、私の手を引っ掴んで来た道を戻り始めた。
「ちょ、うらたさん！？」
「……だから、心配だっつってんの」
独り言のように零された言葉は、私の耳にはっきりと届いた。
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りひと(プロフ) - みかんさん» みかん様/ コメントありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです♪今後ともよろしくお願いいたします！ (2020年1月1日 10時) (
レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - 完結おめでとうございます！りひとさんの作品大好きです。これからも応援しています、頑張ってください！ (2020年1月1日 9時) (レス) id: 6edfb9ce46 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - しぃさん» しぃ様/コメントありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです！今後とも応援のほどよろしくお願いいたします！またコメントお待ちしておりますね♪ (2019年12月31日 20時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - まつりさん» まつり様/ありがとうございます！新年には新しい作品も投稿してまいりますので、今後ともよろしくお願いします♪またコメントお待ちしておりますね！ (2019年12月31日 20時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - 完結おめでとうございます！とても好きな作品なので2人分のルートを作ってくださり、とても嬉しかったです！他の作品の更新も楽しみにしています (2019年12月31日 19時) (レス) id: 42c92e6201 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りひと
| 作成日時：2019年12月24日 11時
