婚約 ページ3
「あの日、貴女を私の嫁にすると決めたのです。」
あまりに唐突な出来事に頭がこんがらがる。青い鬼火が灯った場所へと着いたかと思えば、何匹もの狐が「あのお方か!」「噂の!」と騒ぎ立てている。
ああ、私、本当に嫁にされるんだ。そう思った瞬間、突然どうしようもない恐怖が身体を支配した。一粒、涙が零れたかと思えば、ぼろぼろと両目から涙が溢れてきた。
それに妖狐様は目を丸くすると、「どうしたのですか」と私を抱きかかえたまま問うのだ。狐たちはせっせと宴の準備らしきものをしている。どうしよう、どうしよう。
すると、ふと降っていた雨が止んだ。辺りの狐たちがざわめきだす。「嫁入りではないのか?!」「今日ではなかったか!?」騒ぐ狐たちに、妖狐様が諌めるように言った。
「今日は式は挙げん。」
その言葉に、私は両手を顔から外した。狐たちは素直に従って片付けをし始めていて、妖狐様は穏やかな顔で私を見ていた。辺りが住宅街に変わる。気づけば私の家の前だった。
「急なことで貴女を驚かせた挙句に泣かせてしまった。申し訳ない。」
申し訳なさそうに眉を下げてそう言う妖狐様に、私は嗚咽交じりに「いいえ」と首を横に振った。妖怪が、人間の感情や事情を考えられるはずがないのだ。心のどこかに、冷静な自分が居た。
「…けれど、私は決めたのだ。諦めはしない。」
そう言って私を降ろすと、妖狐様は私の手首に木でできたブレスレットを付けた。
「これで、正式な婚約者ですね。」
お狐様は相変わらず微笑んでいて、ほら、やっぱり、と心のどこかの私が言った。私は置いてけぼりで、私の意思なんてそっちのけだ。逃げられないという恐怖のせいか、どぐどぐと心臓が脈打ち、冷や汗が垂れるのがわかった。
「式はいつでも挙げられます。貴女の心の準備が整い次第、執り行ないましょう。」
何も言えずにじっと妖狐様を見上げてると、妖狐様は「ああ」と思い出したように言う。
「私は、玉藻といいます。A、これからよろしくお願い致しますね。」
そう言って私の手の甲にキスを落とすと、玉藻さんは風のように消えて行ってしまった。カラ、とブレスレットが鳴る。
「…。」
お爺ちゃん、私、妖狐様と婚約したみたいなんだけど!と家へ入れば、ヨボヨボのお爺ちゃんは「飯ぃできとるぞぉ」と言うだけだった。最近、難聴に拍車がかかっている気がする。
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サヤノ - めんたい先輩さん» こんばんは、お元気でしたか? 私はちょっと元気と言うか、コロナ騒ぎで色々あって死ぬ程ストレス発散しそうで気が滅入っていたんです…実はコロナに巻き込まない様に私は買い出しして、自斎しています、ですが・・毎日真剣に読むのも肝心ですので大丈夫です。 (2020年4月21日 20時) (レス) id: 7cd0816ef6 (このIDを非表示/違反報告)
珠華姫(プロフ) - 最近、ぬーべーハマってきて、中でも玉藻先生大好きだから本当に面白いです!楽しみにしてますね。無理はなさらないように頑張ってください (2019年7月10日 21時) (レス) id: d92aabc503 (このIDを非表示/違反報告)
めんたい先輩 - みなさん有難うございます、大変励みになったのでたくさん更新しておきました( ˘ω˘ ) (2018年12月31日 20時) (レス) id: da9cc08ab3 (このIDを非表示/違反報告)
サヤノ - 此度の連載夢小説の狐の嫁入りをとことん応援しています。 (2018年10月26日 8時) (レス) id: dd5aa67050 (このIDを非表示/違反報告)
桜雪(プロフ) - 嗚呼ーー玉藻先生ヤバいーーー 更新待っています(^ω^) (2018年7月27日 19時) (レス) id: 1185acbb8b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:めんたい先輩 | 作成日時:2015年3月9日 0時