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乾杯！その音頭でお互いにぶつかり合うグラス。
その瞬間、コンと小さく音が鳴る。
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あ 「夜景すっごく綺麗だね…」
阿 「でしょ？ここ一番良い席なんだよ」
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高層ビル最上階のイタリアンのお店。その窓際の奥の席。二人だけの空気感。
そこからの夜景は言葉が出ないくらい綺麗で…
ライトアップされた風景が美しい。
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お店の甘美な雰囲気とムードに酔いしれる。
たまにはこういうのも良いなぁなんて…
目の前で幸せそうにお酒を口にしてる亮平を見て思った。
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あ 「ねえ、亮平。ひとつ聞いてもいい？」
阿 「んっ…？」
あ 「どうして今日。時間くれ、だなんて言ったの？」
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いつも用意周到な彼からしたら急すぎたの。
ふたりで居酒屋に行く時、最低でも3日前には予定が空いているかを聞いてくる貴方が
昨日は、突然にそんなことを…
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阿 「…んー。教えない」
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"今はね？"
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そう一言だけ発すると
目の前のグラスを少し口にするんだ。
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ずるいな…
またそうやって、亮平は余裕なんだ。
私に一ヶ月間の恋人の話を持ち掛けて来たときもそう。貴方だけが余裕だった。
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今は亮平の彼女なんだから教えてくれてもいいのに。
だけど、やっぱり…
教えて欲しいことをなかなか教えてくれない。
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『お待たせ致しました』
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そのまま料理が運ばれて来る。前菜、主菜にデザート。
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その度、店員さんに『ありがとうございます』と言う彼を見て、初めて出会った頃の律儀な亮平を思い出した。
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その時は優しくて、笑顔の素敵な人だって思ったんだっけ…？
けど、蓋を開けてみればそれは表向きの彼だった。
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今ではもうどちらが本当の彼か分からないけど…
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あ 「はぁ。お腹いっぱい〜…」
阿 「そうだね。でも、最後に…」
あ 「えっ、まだ何かあるの？」
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デザートが出たからもう最後じゃないの…？
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なんて思っていたら、亮平が近くの店員さんに視線をやり、突然右手を上げる。
それを合図にして…
お店の電気が暗くなる。
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あ 「えっ…？」
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そして、それが明るくなった時には…
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阿 「A。誕生日おめでとう」
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目の前に広がる甘い香り。イチゴの乗ったホールのケーキ。
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そして私の視界には優しく微笑んだ亮平が映り込んだ。
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作者名：くろーばー。
| 作成日時：2020年12月29日 22時
