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何がなんだか分からなくて、私は視線を上げずにひたすら2人の靴と影を見ていた。
取り立て屋の男はまともな返答をする前に、後から来た影の人が全部言いくるめてしまったのだ。後ずさるようにして取り立て屋の影は消えて、後から来た人だけが残った。
ぱん！
手を叩かれた拍子にぱっと視線が上を向く。
こちらを見下ろしていたのは歳若い男の人。もしかすると年下か？端正な顔をしていた。
｢という訳で、あなたの借金を肩代わりしました剣持刀也です。
返済は今度から僕にお願いしますね｣
｢こ、こんなこと、何が目的で、｣
｢あなたってとても器用らしいですね？｣
｢…え、まぁ、はい｣
長所と言葉にしにくいが、私は自覚もあるほど手先が器用だった。なぜ、そんな事を知って…？
｢それを活かして、僕のところで働いてもらいます。
その前に、きっちりと仕事を覚えてもらいましょうか。
あなたが学校を卒業する半年後には一人前として働いていただきますからね｣
私が器用なことも、学生であることも全部知っているらしい。そりゃそうだ。私の家族の借金もその金額も知っていて一括返済したのだから。
まともなところじゃないだろう。もしかすると、先程の取り立て屋のところよりやばいところかもしれない。
｢にげる、とか思わないんですか…？｣
｢思わないです。あなた、先程の取り立て屋からも逃げなかったでしょう。最初から無理な金額だと分かってるのに。
そういう無謀なところ好きですよ｣
その表情のどこが好ましく思っている笑顔だろうか。そう言いたくなるのを堪え、こちらも思っては無いまま、ありがとうございますと返した。
目の前に差し出された手のひらに不思議に思っていると一言｢手を｣と言われる。
手ってどうしたらいいのかなと持ち上げた行き場のない手を、その人に引っ張られて勢いで立ち上がる。
あまりの勢いの良さに彼に向かって体が傾く。それを案外ちゃんと受け止めてくれた。こうした意図を汲み取ろうと彼の表情を確認する。
至近距離になった彼は薄ら笑みを浮かべていた。
｢これからよろしくお願いしますよ、A｣
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作者名：Nk | 作成日時：2024年1月21日 22時
