手作り pssi ページ17
▫️幼馴染(pssi視点)
甘い香りが部屋にまできた。
「なんで僕の家で作ってるの」
キッチンに向かって問いかけると、ひょこっと姿を現したのはAでエプロンまでして気合十分のようだ。
「ピスサイくんに味見してもらおうと思って！」
「なら、自分の家で作ればいいじゃん」
「もう幼い頃から習慣みたいな感じでつい来ちゃった」
この習慣…バレンタインのお菓子作りを僕の家ですることになったきっかけってなんだっけ。覚えていないけれど、毎年毎年Aは僕の家に来てお菓子を作る。
もうそろそろできるから待ってて！なんて言いながらキッチンへと戻っていった。本人は料理下手だから成功したところを見たことがないのにその自信はどこから来てるの。
それはそうとして、なんか焦げ臭くない…？
「うぅ〜ピスサイくん〜」
情けない声が聞こえて、キッチンを覗くとオーブンを見つめるA。取り出した天板には真っ黒ななにかが乗っている。焦げ臭さこれじゃん。
「失敗しちゃった」
しょんぼりする顔をよそ目に、スプーンを取りだしてそのケーキらしき物から1口分すくって食べる。
「あっ！」
「にっがぁ、あと焦げがじゃりってした」
「もう、なんで食べるの、失敗してたの分かるでしょ」
作り直すからもうこれはだめ！と、取り上げようとしたのを見かけて話しかける。
「まだ口のなか苦い、水ちょーだい」
「持ってくるからまってて！」
慌てて水の注がれたコップを差し出してきた。飲んでもちょっとだけ苦味は残る。まじで、なに入ってんのこれぇ…
「どうせ次も失敗するでしょ」
「分かんないじゃん！
……あ！材料がもうない……」
もう今年も手作りバレンタインあげるのやめとけば？と言えば、そうしようかなと返された。
毎年恒例のやり取りだ。
「今年も友達にはあげるのは市販だね」
「そうしなよ。これ貰う方もたまったもんじゃないから」
だよね。と、僕の意地の悪い言い方なんて慣れたようにスルーして洗い物のたまったシンクに向かった。ガチャガチャと洗い物を始めたAの背を確認して、置いたままのそれを見る。
もう一口食べる。にっがいな、もう。
「このままずっと僕にだけに作ってたらいいのに」
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作者名：Nk | 作成日時：2024年1月21日 22時
