ここにいてよ gk ページ11
▫️恋人(一人称視点)
※当社比ちょっぴり切なめ。
｢ガクくん別れよっか｣
｢え｣
彼が皿洗いしてるときに、リビングに座ったままの私が声をかけた。
ガシャンと皿の落ちる音がする。
｢な、んで｣
｢…ガクくんが分かってるでしょ｣
慌てて近寄ってきたガクくんは私に手を伸ばした。
｢いかないでよ｣
私をつかもうとしたガクくんの腕がすり抜けた。
空を切る手にはっとした様子で私を見る。
そう、もう存在すらできない。
私は幽霊なのである。
気付いたら幽霊として存在していた。死因はさっぱり。いくら経ってもお迎えが来なく、地上に留まる私は未練があるから成仏できないんだと悟った。まっさきに思い出した未練は、好きだったガクくんに思いを告げれなかった事。一度死んで吹っ切れてるし、どうせ姿も声も聞こえないだろうから(一方的に)告白して成仏してやろう。そう思い立って生前あんなに悩んだ告白をすることをすんなりと決めた。
しかし、ガクくんの前に現れてみると彼は私の姿が見えるし話もできた。なんなら触れることも出来た。混乱した私は言わなくていいこと1から10まで説明しちゃって勢いで告白。
その返答として彼は付き合いましょうと答えてくれたのが数週間前。
ガクくん優しいと思ってたけど、こんな幽霊状態の私にまで慈悲をくれるなんてガクくん人として出来すぎてない？
ガクくんが呆然と見つめる手のひらに自分の手を重ねる。すり抜けないようにそっと添える。あーあ、さっきまで触れられてたのに。
｢もう触れないね｣
｢なんで、ずっとここにいてよ｣
｢ふふ、生前に聞いてたら喜んで泣いちゃうセリフ｣
わざとらしくくすくすと笑う。泣き顔なんて見せたくない。最後くらい好きな人の前では可愛くいたい。
｢付き合ってくれてありがとう。
ガクくんには幸せになって欲しいの。だから、私と別れて精算しよう｣
満足というより、過度ですらある幸福を享受できた私は未練もなく成仏することだろう。あぁ、消えかけている。もうあと何秒彼を見られることだろうか。
｢…やだよ。オレ別れたくない｣
｢……だめだよ、ガクくん｣
｢オレーーーー｣
ガクくんがもうなんて言ってるのか聞こえなかった。
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作者名：Nk | 作成日時：2024年1月21日 22時
