園遊会 中編 ページ5
休憩時間になり、ばらばらと人が動き出す。厠から戻ってきた秀雷は里樹妃を探すため幕裏に向かった。ちらほらと武官の姿が見える。気になった女官に簪を渡しているのだろう数人の女官が嬉しそうに談笑しながら歩いていた。
「すみません」
突然声をかけられた。小柄な女官がこちらを見上げていた。そばかすが消えているので一瞬分からなかったが、確か猫猫という少女だったはずだ。
「何か?」
籠に入っている布に包んだ石を渡される。
「どうぞ。先程寒そうにしていたので、温石はいかがかと」
無愛想だが、良い子である。ふっと頰が緩んだ。
「ありがとう。君は…」
「翡翠宮で玉葉妃の毒味役をしております。猫猫と申します」
「私は秀雷(しゅうらい)っていうんだ。温石ありがとう子猫(シャオマオ)」
(いきなり子(ちゃん)付けですか…)
猫猫の周りには茶目っ気のある人が多いらしい。玉葉妃然り壬氏の付き人の高順然り…。秀雷は温石を懐にしまいながら猫猫に尋ねる。
「里樹妃を探してるんだけど、見てないか?」
「里樹様ですか?」
何故探しているのだろうと猫猫は訝しげにこちらを見る。秀雷は周りに人がいないのを確かめると、声を潜めて言った。
「ほら、今日の園遊会で里樹妃の衣装が玉葉妃と被っていただろう?あれをなんとか自然な感じで着替えさせたいのだが…」
「随分お優しいのですね」
「ああ。里樹妃はどうやら侍女に恵まれていないようだしね。いらぬ気遣いならそれでも良いが、1人くらいは味方がいても良いのではないかと思ってね。…まぁ、信頼できる優秀な侍女がいるのなら話は別なのだけど」
猫猫は指である方向を指した。
「先ほど、里樹様はあちらに歩いて行かれました」
「そうか、ありがとう。私は壬氏様の護衛などで共に行動する事がある。どうやらあのお方は子猫(シャオマオ)の事を気に入っているようだからもしかしたらまた会うかもしれないね」
そう言って秀雷は手を猫猫の頭に乗せ、里樹妃が向かったという方向に向かって歩いて行った。
(……ん?)
違和感に気づき、自分の頭に手を伸ばす。青玉石の飾りのついたかなり精巧な造りの銀製の簪があった。
(食えないなぁ…)
はたしてあの女性の武官は女色家だったのだろうか。猫猫は合計4本になった貰い物の簪を見て溜息をついた。
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ゆう - すごく面白かったです!個人的にはおいしい設定なので続き楽しみにしてます!! (2019年10月1日 2時) (レス) id: 5fb09e599b (このIDを非表示/違反報告)
佰 - 面白いです!女性の武官って良いですね!続きが気になります!これからも更新頑張ってください! (2019年7月26日 15時) (レス) id: 12eab0778e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:与一 | 作成日時:2019年6月24日 1時