先生、教えて°Kanta ページ20
深爪するほど短く切り揃えた爪を目で追う。彼の骨ばった指先が指すのは問題集の(問４)のところだ。近付いては離れて、触れたり触れなかったりする肩口にくすぐったさを感じる。
「ここは素因数分解で…」
彼の低い声が鼓膜を揺らす。右から入り頭を巡って体中を駆け回ると、空気の様に流れ出していく。
「……」
「…聞いてる？」
反応を示さないあたしを不思議に思ったのか、こちらを振り返った黒縁眼鏡の彼。授業の時だけ眼鏡をするところとか、狙ってるのかというぐらいあたしの心臓をブチ抜く。真正面で見つめられるのも良いけど、やっぱり横顔がとても好き。
「聞いてる」
後を追うように頷けば、彼は(問４)を指差してあたしに言った。
「とりあえず、授業終わるまでに分からなかったらまた質問して」
彼の目を見つめたまま、はい、とだけ返事をする。ジッと視線を離さないでいれば、彼からふっと逸らされた。その瞬間、生ぬるいものが体の奥を駆け上がっては頭で蒸発する。
遠くの席の子が佐藤先生と彼の名を呼べば、先生はあたしの元から離れていく。先生が歩くたび、ほのかに香るいつもの優しい匂いに彼を感じた。決め付けるわけではないが、きっとみんなも彼が好きだ。上がりつつある成績と、静かな授業がそれを物語っている。結局、授業の終わりを示すチャイムが鳴るまで先生だけを見てたあたし。
「明日テストするから復習してくるように」
教卓に立った先生がクラスを見渡してそう言った。えー、なんて声を上げたのはどうせ男子だけだ。まだ鳴り終えないチャイムを聞き流しあたしは教卓に駆け寄る。
「先生、教えて」
「え？」
チラリとこちらを見下ろした先生に教科書を見せたあたし。「…ねぇ、またあいつ」なんて他の女子の視線が痛かったが、そんなもんに負けるほど恋する乙女は弱く出来てない。腕時計に目をやった彼は少し躊躇ったが「職員室で教える」と教室を出た。
歩幅が広く一歩の大きい彼の少し後ろを追いかけて、廊下に生徒がいない事を確認する。先生、と彼のシャツの祖を引っ張れば「二階奥の準備室」と耳元で囁かれた。その言葉にあたしは足を止める。
「カンタ君、先に行って待ってる」
歩みを止めずに、ひらりと小さく手を振った彼に笑った。
誰も知らない、あたし達の内緒の合言葉は”先生、教えて”。あたしがその言葉を吐くとき、彼は先生でなくなる。これはあたし達だけの秘密で、この先誰に共有する事もなくひっそりと守られていくのだ。
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匿名(プロフ) - ゆさん» お返事遅くなりました。嬉しいコメントありがとうございます！実は私もお気に入りな、そらクイズです ^ ^ カップル設定はあまり書かないので、たまには仲良しもいいかなと思ってクイズ形式にしました（笑）また近々そらクイズかけたらな〜と妄想を膨らませています (2019年10月29日 0時) (
レス) id: ffeb5d68ca (このIDを非表示/違反報告)
ゆ(プロフ) - そらクイズが好きすぎて何回も見に来てしまいます…！ (2019年2月4日 10時) (レス) id: 2e24e32ba3 (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 渡邊琥覇紅さん» あ、気が合いそうですね！これは少々マニアックかしら…( ﾟдﾟ)と不安だったので、凄く嬉しいです^ ^ 私もジン君はこういう事して笑ってそうと思ったので、書いてて楽しかったです。でも実際されたら速攻別れると思います！メッセージありがとうございました！ (2017年4月30日 20時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
渡邊琥覇紅(プロフ) - 匿名さん» いっくんをからかうの、凄くよかったです!!読んでて可愛いって思いましたw ジンくんの沈溺プレイ、一番好きです!ジンくんっぽいな、と思いました。更新楽しみにしてます！ (2017年4月30日 13時) (レス) id: 8dd5b17f5a (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 荒黒#*.ｍｉｔｕｋｉさん» ヒカルさんって書こう書こうと思えば思うほど出てこないのに、たまに天から脳内にエピソードが降ってくるように話を思いつくタイプの人です^ ^あと、ついつい髪の毛いじっちゃうんです（笑）個性的で似合ってますよね^ ^メッセージありがとうございました！ (2017年4月25日 17時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：匿名
| 作成日時：2017年3月1日 22時
