健全なあなた達へ【YouTuber短編集】

もっとして°Ikkun ページ1

玄関の扉を開けた時、部屋の騒がしさにあたしは溜息を吐いた。

「…また来とる」

いつもより沢山散らばっている靴を揃えてその隣に脱いだヒールを並べた。廊下の向こうにある奥の部屋からは狂気の塊みたいな絶叫が聞こえてくる。玄関先で少しばかり気合を入れてから、リビングの扉を押し開けた。

「あ、Aおかえり！」

予想通りの光景。狭い部屋にむさ苦しい程の男達、＝禁断ボーイズのメンバーが集まって明るくあたしを迎える。

「…ただいま、ねぇ酒臭い」

缶ビールやおつまみの袋があちこちに散らばってごちゃついた床を見下ろした後、彼等へ順番に視線をやった。お目当のいっくんはあたしと目を合わせることもなく、お酒を煽ってヘラヘラしてる。てかメサイア、めっちゃフローリングで寝てるんやけど。

「なに？なんか不機嫌やん」

酔っ払っているのかシラフなのか最早分かりゃしないが、あたしのふくらはぎにペタペタと触ってくる金髪の手を足で払いのけた。

「やめてや田中」

「痛。ちょっとスキンシップさせて」

「ええって田中」

「…冷たぁ、てかなんでAって俺のこと呼び捨てにするん」

「愛情表現やん」

いや、違う。こんな陳腐なやり取り、もう何回した？彼等が最近よくこの家に集まって駄弁るせいで、あたしといっくんの時間が全然ない。ただでさえ編集で忙しそうだから気を遣って、あんまり邪魔しないようにして。それをふまえて今日は二人で過ごそうって前々から約束してたのに。気に食わなくて、フラフラとカメラをセットする田中さんに尋ねる。

「…狭い部屋に集まって、なんの動画撮るつもりやったん」

サブと口を開いた彼にあたしはなんなんそれと落胆した。

「サブやけど、あかんで。Aは入れたらへんで」

「…あたし、入りたいとか一言も言うてへんな」

「うっそー、映りたそうな顔してるやん。よかったら売名しとく？」

ムカつく顔でニヤニヤしてる田中さんを細い目で見れば「そんなん怖ない」なんて頰を掴まれる。タコと言ってあたしの唇にチューしようとしてきた彼の肩を思い切り押した。

「もー！やめてや、酒臭い！」

麦芽の香りを漂わせる田中さんを振り払って、眠たそうにしているモーリーを叩き起こそうとする。

「なぁモーリー！寝るんやったらメサイアと田中連れて寝室行ってや！」

「ん〜………」

「モーーーリーーーー！」

「………………ぐぅ」

これはあかん。起きん。絶対起きん！

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