犬、線を辿る ページ10
暇を潰すように、ぎゅうと白線の端を足で踏み消した。ここは消してはいけない線だけど、ぼうっとした頭は白い線の端っこのことしか考えていない。さっきから目の前を何度も何度も陸上部員が走り去っていく。あたしはというと朝の日差しが重い瞼に突き刺さって、お陰で少しも目を開けたくない。つまりは酷い寝不足なのだ。
「あんまり寝てないの？」
そう声をかけてきたのは先輩マネージャー。彼女に向けて返事をするべく、あたしはのろりと頭を持ち上げる。
「昨日、流れ星みたんですよ…」
半分消えかけた線から視線を逸らしてそう言えば、先輩は小さく首を傾げて笑った。
「寝てなさそうだね」
「なんか流れ切る前に願い事を三回しなきゃいけないらしいけど、どう考えても無理ですよね…」
先輩は笑顔のまま考える仕草をして、ストップウォッチを見つめたまま言った。
「もしお金が欲しいなら、金金金とかでいいんじゃない？」
「ふっ…」
「これなら言えるよ」
「…先輩って、面白いですね」
「え…」
かねかねかね、かぁ。とオウム返しをしたあたしの前を勢いよく通り過ぎていく陸上部員。タイミング良くストップウォッチを止めた先輩はタイムを確認したあと、あたしの顔を覗き込んできた。
「大丈夫？」
「え？」
心配そうな顔をしてる先輩の向こうで、荒い呼吸の部員が駆け寄ってくる。
「何秒だった？」
「11秒68」
「前回は？」
「11秒62」
「ありがとう」
聞き慣れた会話が終わり、また先輩があたしに聞いてくる。
「なんか嫌なことあったの？」
「あたし、そんなに変な顔してます？」
「顔色もだけど、テンションが変だから」
「あったような…無かったような……」
「嫌なことあった時は運動すればいいよ。最近走ってる？」
「はし……ってないです。陸部はマネージャーも走るんですか？」
「私は中学で陸上してたから走るよ」
「…あたしも走ろうかな」
「走ると気持ちいいよね」
そう言って笑った先輩は記録表を持って、100メートルのスタート位置に歩いて行った。手持ち無沙汰になったあたしはやはり足元の白線をちょっと踏む。
そして真剣な顔をしてグラウンドを駆け抜けるてつやに目をやった。こっそりと盗み見するように、びゅんびゅんと風を切って走る彼を眺める。
「速い…」
部活中いつもならりょうを目で追うけど、今朝は何故かてつやだった。昨晩の綺麗な流れ星を思い出して、オマケにりょうとのラインを思い出す。あんなもの、クソッ……なんてあたしはまた白線に視線を落とした。
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あおい(プロフ) - 一気見してしまいました！続きが気になります…！ (7月29日 19時) (
レス) id: 5d8097aa88 (このIDを非表示/違反報告)
こなん - 1番好きな雰囲気のストーリー！続きも楽しみに待ってます！頑張ってください！！ (2022年10月20日 15時) (レス) @page14 id: d5939a1a6f (このIDを非表示/違反報告)
あむ(プロフ) - 面白くて切なくて最高です！続き楽しみに待ってます！頑張ってください^_^ (2022年8月15日 15時) (レス) @page14 id: 85ad4508c6 (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - くぅかなさん» コメントありがとうございます！そう言っていただきとても嬉しいです。甘酸っぱい学園青春ストーリー！…みたいなのを考えていましたが、昼ドラのような雰囲気になりそうな気配を見せていますね。これからどうなるのか最後まで見守っていただければと思います！ (2022年7月7日 9時) (レス) id: c0fa65fbb4 (このIDを非表示/違反報告)
くぅかな(プロフ) - やばい！一気読みしてしまった！続き待ってます！ (2022年7月3日 9時) (レス) id: c4e0c26ecd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：匿名
| 作成日時：2022年4月16日 11時
