てつや、正解探し ページ7
Aが俺を見つめる視線が何だかいつもと違うと気付いたのは、俺が彼女の事を真っ直ぐ見るのを躊躇った瞬間からだった。隣に座るAとの付かず離れずの距離感に、心臓は体内から飛び出そうなぐらいバクバクしている。
"てつやを選んでいたらどうなっていたかな"、彼女が俺に尋ねた質問は、こちらがどう答えてもおかしな方向に進む問いだと感じた。だけど目の前に座るAはいつもより女の子に見えて、触れ合う肩と肩が熱くて熱くて苦しいぐらいだった。
「選ぶって…どういうこと」
「てつやを彼氏にしてたらまた違ったかなって」
「俺を…うぅん…」
なんて返そうか、なんて返そうか。どう返事をすれば彼女にとってベストなのか、そんな事を悩んでいるうちにも会話は進む。
「こんなこと言われても返事に困るよね。ごめん」
「えっ……いや…」
戸惑う俺にしゅんとしたA。言いたいことはあるけれど、どう伝えれば良いのかまとまらない。俺はグルグルと迷った結果、何かしらの言葉を吐けばその後に何かが続くだろうと決心し、とりあえずといった風に口を開く。
「どっちを選んでも正解だし不正解でもあるんじゃ……」
生唾を飲んだ俺が途中で言葉を止めたのは、さっき決めたはずの決心が一気に取り壊しにされたからで。それはつまりAが俺を穴が開くぐらい見つめたからで、その目が言葉を必要としていないと直感で思ったからで、端的に言うとそれは。
「…………」
顔を見合わせたまま黙り込む俺達を、鈍く光る街灯が淡く照らす。俺の視線はつぅっと落ちるように彼女の唇へ向かい、その柔らかさや溶ける程の体温を足りない脳みそで想像した。だけど何も思い浮かばない。浅くて速い呼吸と激しい心音が相当な動揺を物語っている。
少しばかり湿ったコンクリートに手を付くと、砂利が肌に刺さって痛かった。でもそれも一瞬で、彼女に近づこうと体をかがめるほど痛覚は馬鹿になってゆく。互いの呼吸が互いの肌にそっと触れた時、勢いよく彼女の方へ手を伸ばした。途端に目を丸くさせて俺を見たA。
「きゃ…っ!」
小さな悲鳴が聞こえたかと思えば、俺は彼女の細い肩を強く掴んで自分から引き離していた。
「…流石に、それは違う」
けたたましい心音で鼓膜が揺れる中、なんとか声を搾り出した。そして彼女の肩から手を離し距離を置くように立ち上がる。
「もう遅いしそろそろ帰ろう」
これが正解でも不正解でも、もはやどっちでも良かった。今の自分が持ち寄る最大限の道徳を表現したつもりだった。
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あおい(プロフ) - 一気見してしまいました!続きが気になります…! (7月29日 19時) (レス) id: 5d8097aa88 (このIDを非表示/違反報告)
こなん - 1番好きな雰囲気のストーリー!続きも楽しみに待ってます!頑張ってください!! (2022年10月20日 15時) (レス) @page14 id: d5939a1a6f (このIDを非表示/違反報告)
あむ(プロフ) - 面白くて切なくて最高です!続き楽しみに待ってます!頑張ってください^_^ (2022年8月15日 15時) (レス) @page14 id: 85ad4508c6 (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - くぅかなさん» コメントありがとうございます!そう言っていただきとても嬉しいです。甘酸っぱい学園青春ストーリー!…みたいなのを考えていましたが、昼ドラのような雰囲気になりそうな気配を見せていますね。これからどうなるのか最後まで見守っていただければと思います! (2022年7月7日 9時) (レス) id: c0fa65fbb4 (このIDを非表示/違反報告)
くぅかな(プロフ) - やばい!一気読みしてしまった!続き待ってます! (2022年7月3日 9時) (レス) id: c4e0c26ecd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名 | 作成日時:2022年4月16日 11時