君の犬になってもいいよ【東海オンエア】

犬、ウキウキ ページ49

ぎらぎらと発光する大きなテレビ画面に映るのは見覚えのある映像。爆音に包まれたあたしは流れていく文字を目で追った。８畳程の部屋に鳴り響く流行りの歌は、何度も聞いたことがあるものだ。マイクを片手に熱唱するとしみつを眺める。彼の歌声は初めて聞いたけど妙に耳触りが良い、他の人と比べて歌がうまいから聞きやすい。

「みんなで集まるってカラオケの事なのね」

としみつの方を見ながら言ったあたしの言葉に「場所はさっき決まったんだけど」とりょうが笑う。彼等仲良し達は、こうやってノープランでいつも集まって遊ぶらしく、この前は河川敷で季節外れの花火をしたらしい。

「いいな…なんか楽しそうで」

「楽しそうって、Aももう輪の中にいるじゃん」

「まぁ、そうだね」

そうなんだけど、なんかちょっと違う。昔からの仲良しの中に、偽物の彼女であるあたしがただそこにいる。水の中に油が一滴ぽちょんと落とされただけ。
テレビ画面に９４点の数字、なかなかの高得点を叩き出したとしみつ。次は俺かとマイクを持ったのはしばゆーで、彼は後から遅れて部屋に来た。りょういわくしばゆーは変な人で、あたしはまだ話した事が無いのでどんな風に変なのかは分からないけど、花火もやろうと言い出したのはしばゆーだそうだ。いかにも変な人っぽい。

「A歌わんの？」

としみつに聞かれて、あたしは小さく頷く。

「聞いてるだけでも楽しいよ」

「そうなの？俺は歌ってる方が楽しい」

「としみつ歌上手いもんね」

「何急に。照れるって」

言葉通り照れ臭そうに頭を掻いた彼に、肘で肩をちょんと突かれる。その瞬間、"心地良い"っていう気持ちと同時に"嘘ついてるの嫌だな"っていう感情がごっちゃになってあたしの頭を駆け抜けた。

「歌ってよ。Aの歌聞きたい」

長い足を組み替えたりょうが、笑顔のままあたしにデンモクを手渡してくる。

「えぇ、何歌えばいいの」

「何でもいいよ。としみつがハモってくれるって」

「じゃあ歌っちゃおうかな」

「二人で歌えるやつにしよう」

そう言って、ハモる気満々のとしみつもデンモクを覗き込んで来る。ああでもないこうでもないと曲を選んでいれば、やっぱり楽しいとあたしは心がポカポカしてくる感覚に襲われた。

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