君の犬になってもいいよ【東海オンエア】

犬、オレンジブルー ページ48

「保健室でやらしい事しないでくださーい」

突然、部屋に響いた声にあたしの身体が大きく跳ねた。声が聞こえた扉の方に目をやると、としみつとゆめまるがニヤニヤしながら立っている。いつから見てたんだろう。あたしは慌てて鞄を持ち、いやいや不純なことしてないのになんで慌ててるんだと自分に突っ込む。

「困るなぁ、ホテル代わりに使われたら」

冗談混じりに部屋へ入って来たゆめまるに向かって、りょうが笑いながら答える。

「ちゃんと具合が悪い人だよ」

「怪しい空気醸し出してたくせに」

「こんな短い時間にできることなんて限られてる」

「いやいや、なにもしてないから」

りょうのどちらとも取れる発言を撤回しようと思わず声を上げれば「ムキになってる怪しい」と彼等はケラケラと笑う。そこにりょうまで加わって笑っているしで、もはや言うだけ無駄かとあたしは深い溜息を吐いた。

「てかAちゃんって、いつからりょうと付き合ってたっけ」

言いながらあたしの顔を覗き込んで来るゆめまる。

「なんでりょうにしたの？」

「え、」

「りょうは優しいけどさ、俺の方がもっと優しいよ」

返答に困る彼の言葉にあたしが戸惑っていると、見兼ねたりょうがゆめまるの肩を押してあたしから遠ざけた。

「本当に俺達何もしてないから、あんまりからかわないであげてよ」

りょうの言葉に意外にも素直に従ったゆめまるは、眉尻を下げて「つまんないなぁ」と唇を尖らせる。

「てかてつや来なかった？」

あたし達のやり取りに興味など無いらしく、スマホを触りながらとしみつが尋ねてきた。りょうは頭を左右に振る。

「俺らより早くここにきた筈なんだけど」

「見てないよ」

「あれ、おかしいな」

「LINEしてみるわ」

「このあと集まるんでしょ？しばゆーは？」

「先行ってるって」

「なんだそれ。まだ場所伝えてないのに」

「アホだなー、あいつ」

次々と進む三人の会話について行けないあたし。慣れていない枕のせいか硬いベッドのせいか、それとも本当に体調が悪かったのか、未だに頭の奥が鈍く痛む。

「Aも来る？」

不意にとしみつから話題を振られた。あたしは暗くなってきた外の景色を見た後、りょうに目をやる。笑顔の彼は何も言わない。どうやらあたしに答えを委ねているようだった。

「りょうが行くなら行く」

橙から群青に変わりつつある部屋に、あたしの声だけがはっきりと聞こえた。

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