君の犬になってもいいよ【東海オンエア】

犬、好きなところ ページ42

貌をもって人を取る。人間を見た目で判断するのは愚痴無知で、とても浅はかだと思う。だがしかしあたしはこれだけは声を大にして言いたい。りょうの横顔が好き。本能があたしに訴えかける唯一の抗えないエモーションなのだ。
整えられた眉と綺麗な一重瞼。そこから繋がり、完璧に造られた鼻筋の下にある唇はいつも口角が上がってる。 彼がペットボトルの飲料水を飲むたびに、こっくりと動く喉仏にあたしは見惚れた。尖った顎先から善逸を描くように伸びる耳までの骨張った輪郭が好き。なんて素敵で繊細に選び抜かれたライン達、と改めて思う。

「俺、先に戻ってる」

お弁当を食べ終わるなり、そう言って立ち上がったてつや。「オッケー」と明るく返事したりょうの様子を見て、りょうの顔から視線を逸らしたあたしも「ばいばい」と彼に手を振る。小さく手をふり返した彼は、お弁当箱の入った袋を片手で持ち、ぽてぽてと歩いて行った。タッパのある大きな背中が見えなくなった後、二人きりの空間に静けさが漂う。あたしは何となく気まずくなり、空を見上げて呟いた。

「部活までに雨降りそうだね」

「Aは俺のどんなとこが好きなの？」

「……えっ、何急に」

「答えて。俺のどこが好き？」

さっきまでの和気藹々とした空気はどこへやら。突然なんだと目を丸くしたあたしだが、どうやら彼は本気で聞いているらしい。真剣な表情をしてるりょうの圧に押されたあたしは、心臓が速くなってくるのを感じながら答えた。

「き…きれいな、横顔してるなとは思ってた…」

「ふぅん」

呆気ない返事に面食らう。釈明はしないけど、顔が好きですって言ってしまうとそれだけで選んでるみたいで、りょうにそう思われてしまうのは嫌だと何故だか強く思った。

「でもあたし、一番好きなとこあるの…！」

次の瞬間には、思わずそう口走ってた。彼は驚いた顔をしてあたしを見る。足先に力を入れたあたしは拳を握って息を吐いた。

「走ってる時のりょうが、すごく好き」

自分でも何を言ってるんだと焦ったけど、目の前に座る彼が本当に嬉しそうに笑ったから途端に胸がドキドキした。

「なにそれ、めっちゃ嬉しい」

あたしの回答が予想外だったのか、噛み締めるように言った彼。照れ臭くなってきたあたしは目線をゆっくりと下に落として自分の足の先を見つめた。恥ずかしいけど、心は晴れてくような感覚がする。

「A」

「ん？」

名前を呼ばれて顔を上げた瞬間、視界がゆらりと暗くなって、あたしの唇の先に柔らかい何かが触れた。

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