君の犬になってもいいよ【東海オンエア】

犬、キミは可愛い人 ページ40

花が沢山植えられた中庭に、ひらひらとオレンジ色をした蝶が舞う。急降下したり、かと思えば唐突に飛び上がったりと不安定なリズムで飛ぶ蝶からてつやのお弁当に視線を落とした。綺麗な色のサラダを見たあと、あたしは彼の口元に手を伸ばす。

「ご飯粒付いてるよ」

てつやのシャツの裾に付いていた白い一粒を指で取って、自分のお弁当箱の蓋の上に置いた。それを見た彼は小さく頭を下げる。

「ありがとう」

そう言って、いつも伏せ目がちな彼があたしをきちんと見た。りょうとは違う自信の無さげな、でも意志の強そうな瞳。なんかこの人、子犬みたい。

「りょう、遅いね」

あたしが言えば、彼は少しばかり考えた後「うん」とだけ返す。考えていた割に淡白だった返事に、何を悩む事があったんだろうと思いつつも、普段りょうとどんな話するのかと聞いてみる。

「え、どんなだろ……」

また思考の渦に呑まれていくてつやへ、会話がスムーズにいくように助け舟を出すあたし。

「としみつは服の話するって言ってたよ」

「…俺は服の話しないかな。りょうと話すのに内容って特に無い気がする」

「ふぅん」

「でも、マネージャーの話もするよ」

「そうなの？どんな内容？」

「部活がんばってるとか、最近よく笑うようになって可愛いとか」

「へぇ……」

可愛いって、そんな事を人伝だとしても直球で言われたのは初めてだった。自分で聞いたくせに、なんだか一気に恥ずかしくなってくる。カッと頰が熱くなってきて思わず「てつやって走るの速いよね」と話を強引に変えた。

「中学も陸上してたから」

気にする様子もなく彼はそう答えた。部活でもてつやは常に本気で、背の高い彼が走るだけでとても迫力がある。いつも楽しそうにグラウンドを駆けるので、知らない内に彼を目で追っていることは多い。

「走るだけの部活とかよく言われるけど、結構深いんだよ。タイム縮むと嬉しいし、爽快感がある」

「陸上好きなんだね。走ってる時のてつやって辛いのに嬉しそうだもん」

あたしの言葉にハッと顔を上げた彼は、生き生きとした表情をしてた。

「うん、めっちゃ好き」

大きく頷いた彼がにっこりと笑う。その瞬間、心臓を手で掴まれたみたいにきゅんとした。やっぱりてつやが笑うと小さな犬を彷彿とさせる。構いたくなるというか、なんだか頭をよしよししたくなる感じ。あたしは彼の、不器用に箸を持つ骨張った手を眺めて思った。犬なんだな、この人は。

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