君の犬になってもいいよ【東海オンエア】

りょう、難しい ページ35

Side.りょう

まだ、俺の背中を掴んでいた小さな手の感覚が残ってる。
Aには良くも悪くも、閉鎖的で一匹狼な雰囲気を感じてた。だから俺の日常にはあんまり関わりたくないんだろうと思ってたから、まさか練習に付き合いたいと言い出したのは意外だったし驚いた。しかも熱心に俺達のことを応援して、楽しそうに走っている姿には少しだけ心が動いた。彼女はどうなんだろう。
コンビニの中から、俺を待つAの線の細い後ろ姿を眺めた。

「いらっしゃいませ」

顔見知りの女性店員が俺を見て微笑む。商品をレジに置いた俺も同じように笑顔を見せた。高い位置でポニーテールにした彼女はいつものようにテキパキとレジの業務を行う。

「今日は冷えますね。部活終わり？」

「はい」

「そうなんだ。大変だね」

「楽しいですよ」

「そう。外にいる彼女、すごく寒そう」

そう言ってAの方をチラリと見た店員さんのいう"彼女"とは、いわゆるガールフレンドなのだろうか。Aを見て確かに寒そうだと思った俺は、近くにあったホットココアを手に取って店員さんに渡す。

「これも一緒にいいですか」

「良いですよ。袋は要りますか？」

「はい」

Aは藍色に染まりきった空の下で何やら真剣にスマホを眺めている。

「部活、頑張って」

そう俺に声を掛けてきた店員さんに頭を下げる。彼女からお釣りと商品の入ったレジ袋を受け取って店を出た。俺の手には熱い缶が握られており、それを彼女に手渡そうとすれば視界の隅に見えたメッセージ。
"としみつ"。見慣れた名前を一瞬で理解し、内容を頭で読解する。その瞬間、勝手に見るのは良くないと反射的に考えた俺は彼女に声を掛けた。

「あれ、としみつと連絡先交換したの？」

余程スマホに熱中していたのか、俺の声を聞いたAの体が大きく跳ねる。その反応で第一声を間違えたと思った。俺を振り返る彼女がどんな表情をしているのか、見るのが少し怖い。だから直ぐに持っていたココアを差し出した。

「お待たせ」

缶の後ろで驚いた顔をしているAは、そんなに待ってないと頭を左右に振る。

「寒かったでしょ」

そう言った俺は彼女の返答を待たずに、スマホを持っていなかった片方の手にココアを押し込んだ。少しビックリした反応をしてたAだったけど、ココアを見て嬉しそうに微笑む。ふと、可愛いなぁと思った。

りょう、そう思っただけ→←犬、聞いてほしい

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