君の犬になってもいいよ【東海オンエア】

犬、聞いてほしい ページ34

冷えた外の温度と混ざると、暖かくて甘い香りが余計に恋しくなる。ココアを一口飲むと、体の奥に染み込むようにじゅわりと体内が熱くなった。

「いつの間にとしみつにLINE聞いたの？」

そう尋ねてきた彼の声色は明るい。問い詰めるような尋問みたいな雰囲気ではなく、ただ単に気になったから口から出ただけ。そんな感じだった。

「今日のお昼休みに聞いたんだよ」

「二人で話してたもんね」

「話してみると、としみつって意外と優しいの」

「あんな感じだけど面倒見良いよ」

「そう！ギャップが凄いよね」

「へぇ、好きになっちゃいそう？」

「え…」

予想外だったりょうの発言に思わず間抜けな声が出た。彼がこんな風にあたしを試すような発言をするのは珍しい。疑われたくなくて、訂正しようと頭を左右に振る。

「深い意味はなくて、交換したのはりょうの事知ろうと思って」

だけど彼はあたしの事など見てはおらず、膝の上に組んだ両手の中に頭を突っ込んで顔を伏せていた。それに気づいたあたし。見えない彼の顔に違和感が押し寄せ、上がった体温がゆるりと下降していく。

「…どうしたの。大丈夫？」

急に気分でも悪くなったのか。体調を窺うように小さく屈んで彼の顔を覗き込んだ瞬間、切長でスッと通った瞳と目が合った。前髪の隙間からこちらを覗く物憂げな目の色に、あたしの呼吸は静かに止まる。

「りょう…」

確認するように名前を呼べば、彼はあたしを見つめたまま小さく微笑む。

「俺のこと知りたいなら、俺に聞いてよ」

「…………」

「俺の方が、俺のこと分かる」

何かを欲するような顔をしたりょうにそう言われて、あたしはゆらりと頷く。そんなあたしを見て、彼は静かに瞼を伏せた。
その瞬間、なぜか急にりょうのことを酷く愛おしく感じた。ぎゅうと強く抱きしめて、もう離したくなくなるような。そんな不思議な感覚に襲われて不意に右手を彼へ向けて伸ばす。柔らかそうな前髪に、頬や唇に触りたい。ドキドキと心臓を激しく鳴らすあたしは生唾をごくりと飲む。

「寒いね…そろそろ行こっか」

そう言って立ち上がったのはあたしだった。りょうに触ろうとした手、気持ちを押さえ込むようにぎゅうと握りしめて彼を呼ぶ。

「あんまり遅くなったら怒られちゃう」

笑って言ったあたしの言葉に、彼は分かったと返事をした。二人の視線は混ざる事なくぼんやりと揺れて空気に混じる。
自転車の方に歩いていく彼の背中を目で追うあたしは、自分が恥ずかしかった。だって、恐ろしいぐらい感情的に、危うく触れてしまうところだった。

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