君の犬になってもいいよ【東海オンエア】

犬、白状する ページ2

「今、廊下にりょうくんいるよ」

どこからともなく聞こえた声に、あたしはふっと顔をあげた。食堂にでも行くのか、福尾くんを先頭に彼の友達数人が廊下を堂々と闊歩する。彼等はたまたまあたし達の教室の前を通ったのだろう。これでもかとあたしの手を引き「行こう行こう」と立ち上がる彼女達。今思えば彼女等は、あたしの発言を微かに嘘っぽいと感じていたんだと思う。

「Aのイケメン彼氏、あたし達にも紹介して」

茶化すように言われ、嘘をつくなり速攻に訪れたピンチに無茶苦茶焦った。可能ならば、今ここでみんなの手を思い切り振り払い押しのけ、学校を飛び出しもう明日からここには来ませんという選択肢を可能ならば取った。だが不可能なので、その選択肢は捨てるに等しい。

「りょうくーん！」

あたしの手を引くクラスメイトに大きな声で呼ばれた彼は、背丈に見合った長い手足をすらりと揺らして、こちらを振り向く。あたしはまるで空気の抜けた風船のように連れられて公開処刑みたく彼の前に召喚された。

「ん？」

遠いクラスの、あまり関わりのない女生徒達が話しかけてきても彼はスマートだった。そしてあたしはこの人と話したことがない。

「…福尾亮、くん」

彼の名前を呼んでヘラっと笑えば、彼も同じようにあたしを見て笑う。育ちの良さを見せつけるようなスマイルに面食らう。

「あの……ちょっと、話があるのね」

彼の友達が不思議そうにあたしを眺めてる。あたしは背伸びして彼の元に近寄った。

「行こう……じゃなくて、なにも言わないであたしと来てください…」

「え？」

「じゃあ、あたし達二人でご飯してくるね」

彼の友達と、あたしのクラスメイトに向けてそのセリフを放つ。自分でもめっちゃやばい奴だなと思いながらも彼の腕を取り、目を丸くしてる福尾くんをこの場から強引に連れ去った。


＊＊


「突然ごめんなさい！」

校舎裏に彼を引っ張って行ったあたしは、地面に頭が付くぐらいの勢いで彼に謝罪をする。

「本当に変なことして、こんな薄暗い所に急に連れてこられて、やばい奴だと思ってますよね」

答えは彼がノーと言ったとしても、一般論的にはイエスな訳だが、彼は苦笑いをしながら頭を左右に振る。

「いや、全然いいんだけど。君のこと知らないかもしれなくて、話したことあるのかな」

「全くないです。初対面です」

「そう………俺、君になんかしたっけ？」

「どちらかと言うと、あたしが"した"側になります」

ずっと困ったような笑顔をしている彼に「実は」と、あたしは先ほどの出来事を話した。

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