犬、動揺 ページ10
「じゃあ俺こっちだから」
一緒に帰ろうと言ってきたくせに、門前で反対方向を指差した福尾くん。彼はいちいちギャンブラーなのだ。さっきも彼からやめようと提案してきて、逆にあたしを燃えさせたし。きっとあたしがやめると言ったところで彼には何も無かったんだろうけど、あれを仕掛けてくる辺り刺激を求めている証拠だ。
「また明日ね」
そう言って手をひらひらと揺らした福尾くん。この調子じゃいつまで経っても彼は余裕綽々だ。溜息を吐いたあたしも、力無く彼に手を振る。すると福尾くんは納得いかない様子で口角を緩めた。
「なんか冷たいなぁ。彼氏なのに、俺」
「そんなこと言われても、急にカップルみたいに振る舞えない」
「変なの。Aちゃんが俺のこと勝手に彼氏にしたくせに」
「もうそれは謝ったじゃん……」
「せめてその呼び方は堅いからやめよう」
「慣れてきたら変えるから。今はまだ福尾くんがいいん、」
言いかけた彼の名前は途中で途切れた。突然こちらに手を伸ばしてきた彼に腕をグッと引かれ、大きく揺れたあたしの身体は彼の胸元へ傾く。驚いて福尾くんの方を見上げれば、鼓膜を揺らす彼の声。
「そうじゃなくて、りょうって呼んで」
小さな声で囁いた彼の吐息が、耳の端につぅと触れた。あたしは咄嗟にりょうの手を振り払い、耳を手で押さえる。それを見た彼は悪戯っぽく微笑む。
「こんなことでいちいち動揺してたら、俺を好きにさせるなんて永久に無理だね」
「…………」
「じゃあバイバイ、A」
掌をひらひらと振って、彼はあたしに背を向けた。何事もなかったかのように、しかしスッキリとした様子で歩いていく彼。
「は………」
取り残されたあたしは言葉が出てこない。隣に立っているてつやくんが気まずそうな顔をしてる。まだ体温とくすぐったさの残った耳を手でごしごしと拭ったあたし。顔が全部熱かったので、頭をあげることは出来ず俯いたまま言った。
「……帰ろう」
独り言のように呟く。てつやくんは何の反応も返さなかったが、それに反応するように黙って歩き出した。
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匿名(プロフ) - エルタソさん» お返事遅くなりました。こちらこそコメントする事への高いハードルを越えてメッセージを残して下さり、私へのキュンキュンをありがとうございます!見てくださるだけで充分に、本当に有難く支えられている事を実感しております!また是非、覗きに来て頂ければ幸いです。 (2021年1月14日 2時) (レス) id: c0fa65fbb4 (このIDを非表示/違反報告)
エルタソ(プロフ) - 初めまして、最近読み始めたのですがとてもキュンキュンしています!どうにもこの気持ちをなかなか言葉にしにくいのですが、どうしてもキュンキュンしたことを伝えたくてコメントを書かせていただきました!これからもご自身の無理のない範囲で更新頑張ってください (2020年11月19日 23時) (レス) id: e58e659101 (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - ヒロさん» 度々メッセージくださり嬉しいです!ありがとうございます。連打機能あれば素敵ですね!ぽてぽて歩くてつや君の良さが伝わればいいなと思って捩じ込みましたが、共感していただき私も胸が高鳴っています。。これからもヒロさんの小さな楽しみになれるよう頑張りますね! (2020年11月12日 22時) (レス) id: c0fa65fbb4 (このIDを非表示/違反報告)
ヒロ(プロフ) - 今日の更新が素晴らしすぎて☆連打したのに、評価10点じゃ足りないしそもそも評価済みでした!!!きゅんきゅんやばいし個人的にぽてぽて歩くてつやがツボすぎました…。何度もコメントしてすみません…ただこの胸の高鳴りを伝えたくて……返信不要ですorz (2020年11月11日 23時) (レス) id: e6bb449d2f (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - こゆみさん» てつや君はお兄さんというよりも私の中では弟っぽいイメージの方なので、中々男らしさを発揮できずにいます(笑)今後かっこいいてつや君が顔を覗かせる時が来るのか、来ないのか…最後まで見守っていただければ幸いです!嬉しいメッセージありがとうございました! (2020年11月10日 0時) (レス) id: c0fa65fbb4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名 | 作成日時:2020年9月22日 16時