君はすでに誰かのもの°doba ページ36
▶︎どば師匠
あたしの好きな人は、出会った頃から既に他の人のものだった。
深夜二時を回った頃、あたしはレイクレの事務所で付けっぱなしのテレビをぼうっと眺めていた。隣の机ではどば師匠が編集をしており、奥のソファーでたかしが仮眠をとっている。残りのメンバーは仕事を終わらせて一時間ほど前に帰った。
「A、なんか歌ってーや」
なんでもええからと椅子に体を預けたままそう言ってきたのはどば師匠。
「洋楽がいい、かっこいいやつ」
あたしが歌えないことを知って嬉しそうに茶化してくる。こういったノリはもう何度もやらされてきた。眉間に皺を寄せたあたしはテレビのリモコンに手を伸ばし頭を左右に振る。
「そんなん歌われへん」
「上手く歌えんでええから。Aが主旋律、俺がハモるわ」
早くと急かすどばだが、彼らは暇になると"歌って"とか"おもろい話して"とか雑に頼んでくるからウザい。
「英語歌われへんって」
「ノリわるー、つまんなー」
彼はいつものようにそう言って、眠たそうに大きなあくびをした。テレビのボリュームをいくつか落としたあたしはソファーですやすやと眠るたかしの方に目をやる。
「しかも今歌ったらたかし起きるし可哀想やろ」
「めっちゃ眠い。俺もちょっとだけ寝ようかな」
「え？今寝たら地獄見るよ」
「そんな恐ろしい言い方はやめよ」
「だって、その動画いつ出すん？」
「明日やけどさぁー」
彼は気怠そうに言い放ち、赤い髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した。溜め息混じりに立ち上がったあたしは真っ赤なシャツを着た彼の元へ近寄る。
「なんか手伝おうか？」
後ろから画面を覗き込んでみるも、距離を置くようにすぐ姿勢を正した彼に「テレビ観ててええよ」とだけ言われた。いつもそうだった。赤い髪に混じった焦茶の地毛を見下ろしたあたしは椅子を引いて彼の隣に腰掛ける。
「てか昨日の動画面白かったで」
「やろ？ありがとう」
「コラボも一番目立ってた」
「なに急に、そんな褒めても何も出やんけど」
言いつつも、照れ臭そうにエンターキーを叩いた彼は既婚者だ。どれだけ忙しくても編集に追われていても、仕事が終われば必ず家に帰る。好きな人がいる家に毎日帰りたいらしい。彼のそんな純粋な所とか、赤く染まった短い襟足までもあたしは愛おしい。もっと早く出会っていればと何度も思ったことか。
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名無し85578号(プロフ) - どばししょうのお話好きすぎます（т-т）そもそも書く人が少ないのですごい嬉しいです（т-т） (4月21日 3時) (
レス) id: cb5a427560 (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - りを。さん» コメントありがとうございます！面白いと言っていただけて嬉しいです。としみつくんにはお話の中でギターを持たせがちな私ですが、音楽以外のお話も面白そうですよね…！色々考えてみます^ ^ また是非覗きにきてくださいね！ (2022年1月10日 1時) (レス) id: c0fa65fbb4 (このIDを非表示/違反報告)
りを。 - とっても面白いです♪ としみつのお話もっとみたいです！！ (2022年1月7日 18時) (レス) id: b34e0ddef0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：匿名
| 作成日時：2021年12月25日 23時
