その指から零れる音°Toshimitsu ページ37
「なんでか好きな人出来たら、それに合った曲探しちゃうよねー」
あたしの素朴な疑問は、宙を舞って誰にも返答されぬまま消えていく。ソファーに寝そべっていたあたしは「なんでだろうね」と今一度、部屋の奥でギターを触っている彼に尋ねる。すると彼はチラリとこちらを一瞥したあと興味無さげに呟いた。
「知らね」
予想通りの冷たい反応。適当な音の羅列を並べながら、デタラメな歌詞を口ずさむとしみつ。
「なんでかな、としくん」
「その呼び方やめとけ」
「どうしてダメなの」
「今ここで許したらそれ外でも呼ぶやん」
「可愛いからいいやん」
彼は嫌そうな顔をたまま、あたしから目を逸らした。退屈なあたしはまだ彼に絡む。
「恋バナしよーよ」
「話すこと何もない。てつや達向こうの部屋にいるよ」
「嫌だよ。どうせ下ネタしか言わんし」
「恋愛と下ネタってもはや紙一重だからな」
「極論じゃん」
あたしはピュアな話が、汚れてない綺麗な恋愛トークがしたいのだ。それなら純粋無垢なとしみつにと、暇潰しに彼へ声をかけた。それを見透かしているのか、それともギターに集中したいのか、とにかく彼の態度は何となく適当な感じ。そんな風にされると、もっとちょっかいをかけたくなる。
「てかさっきのあたしの疑問答えてよ」
ねぇねぇと、ギターに触れる彼の手に触れる。それをスッと避けたとしみつは答える気が無いといった風に目を細めた。
「…女子ってすぐそういう答えの無いこと探そうとするよな。浮気はどこからとか」
「あー、わかる」
「男は簡単。女の子は難しいんだよ」
「どういうこと」
「俺は簡単で、Aは難しいの」
なにやら意味を含んだ言葉を呟いたとしみつ。手持ち無沙汰な指を使い少しばかり湿っぽい音色でギターの弦を鳴らした。あたしはピックを持つ骨張った指を目で追いかけながら彼に尋ねる。
「好きな人出来たら、作る曲も変わる?」
「…どうだろ。変わるんじゃない」
「どんな言葉、歌詞に入れる?」
「……………」
好きとか、会いたいとか、そんなありきたりで直球な語彙を選んだりするのかな。それとももっと何かを比喩したエモい曲にしちゃうのかな。
「A」
ちらりとあたしを見たとしみつ。不意に名前を呼ぶので、あたしは彼を見上げた。
「え、なに?」
「俺なら、ずっと考えちゃうその名前を歌詞に沢山入れる」
A、と彼はあたしの名前を口ずさむ。あたしは彼から目が離せなくなった。彼は少し切ないコードに合わせて歌う。A、そしてまたあたしの名前を呟いた。
225人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
匿名(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» リクエストありがとうございます!亀さんペースですが、ゆるゆる執筆中ですので気長にお待ち頂ければと思います。 (2019年8月13日 11時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - てつやさんのお話がもっと読みたいです!!!お時間がある時で全然大丈夫なので、ぜひともお願いします! (2019年7月31日 9時) (レス) id: 318cc8d8b4 (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - あゆみさん» ご報告ありがとうございます。一応全文確認してみたのですが、どこでスルーしているのか確認出来ずです…。タイミングが有ればで良いので、どのお話かだけ教えて頂けると凄く助かります。よろしくお願い致します (´._.`) (2018年8月20日 17時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - らいさん» お返事遅くなりました。時間が空きながらの更新ですが、それでも楽しみにしてくれる方々にとても感謝しております。ご要望にお応えできるかは分かりませんが、なるべく優先して考えたいと思います^ ^ コメントありがとうございました! (2018年8月20日 17時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
あゆみ - goziga aruyo----- (2018年8月19日 9時) (レス) id: a08ea1484b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:匿名 | 作成日時:2018年7月23日 0時