ニコラシカ

06.熱帯夜に沈め ページ6

SIDE.MAHOTO


家も直ぐそこだし、どうせ帰り道も一緒だから”後々道ですれ違うでしょ？エレベーター一緒の乗るでしょ？そっちのが気まずいでしょ？”っていう理由で彼女を誘ったのに、自分のぎこちなさが妙な怪しさを足してしまった。
薄暗い歩道を二人で歩きながら、俺は自分から誘ったは良いものの何を話せばいいのかと頭を悩ませていた。長く悩んだ割に出て来た台詞が「一人で夜中にコンビニとか危ないっすよ」これだった。俺の少し後ろを歩いていた彼女が「近いから大丈夫です」と割と淡々と返して来たので会話は即終了する。ただでさえそんなに話上手な方ではない俺は、そのアッサリした返事に見事なまでに心を折られた。とりあえず彼女を家まで無事に送り届けることを今の義務にしようと会話を諦める。

「いつも、家でなにしてるんですか」

諦めたのも束の間、彼女から不思議な質問が飛んで来た。

「……いつもですか？」

お見合いみたいな変な問いかけに俺は少々困りつつも普段の自分を思い出す。

「まぁゲームとか…」

「じゃなくて、うるさい時」

被せ気味にそう言われた。あまりの勢いに遠回しに文句を言われるのかと思ったが、彼女は嫌そうな顔というよりも興味があるような表情で聞いてる。

「ゲームであんなドタバタしないし、爆竹の音はしないですよね」

「あー……、まぁなんていうか」

少しの間考えてから俺は、YouTubeって観たりします？と彼女に尋ねる。彼女はそりゃあねという感じで頷いた。

「たまにですけど、音楽聴いたりします」

だから何？みたいな顔の彼女に「じゃあYouTuberは分かりますか？」と尋ねれば、彼女は一層変な顔をした。変な顔、というよりも嫌そうな顔だ。

「何となくは分かる」

「俺達、それなんですよ」

「え？」

「YouTuberなんですよ」

「…………ふーん」

全然納得してないみたいな返事が返って来て「それで？」と彼女が急かすように聞いてきた。俺も俺で、だからなんだという訳でもないなと思う。

「多分説明しても意味わからないんで、また今度俺の動画観てみて下さい」

そう言えば、納得していない様子の彼女は頷く訳でもなく頭を降る訳でもなく微妙な感じで「気が向いたら」とだけ呟いた。
会った時からそうだったけど、彼女にはとにかく女としての隙が全くない。笑顔どころか愛想のかけらも出してこない辺り、本当に俺達のことを知らないのだろう。

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