ニコラシカ

33.フェイマス ページ33

お目当ての売店は別の校舎の一階にある。そこへ行くには一度自分達の校舎を出て、渡り廊下を抜けて正門の前を通る訳だが、今日はなんだか正門付近の様子がおかしかった。とにかく沢山の人が集まっていて前へ進めないのだ。

「なに？なんかあったのかな」

人を掻き分けながら尋ねてきた彼女に「犬でしょ」と適当に返すが「どんな犬が来たらこんなに集まるの」と至極真っ当なことを言われた。

「じゃあワニとか」

「なんで、どっから来たの」

「その辺の動物園。てかまず昼ご飯買いに行ってる場合じゃない」

「確かに」

不毛な会話をしつつもやはりこの量は異常だし少し気になる。周囲を見渡し、たまたま見つけた同じクラスの男子生徒に何があったのと聞いた。

「なんか外にYouTuberが来てるらしい」

「……なにそれ」

「俺もあんまり知らないけど、有名らしいよ」

野生の勘か何か、嫌な予感がした。もはや彼の言葉に最後まで相槌を打つ余裕など無い。

「あれじゃない？この前テレビに出てた何とかキン……ほら、なんだっけ」

「バイキンマンしか知らない」

「そうじゃなくて、なんだったかな」

「興味ないよ。行こう」

「えぇ、ちょっとだけ覗いてみようよぉ」

ここに来てミーハーを炸裂させる彼女は門の外を背伸びしながら見つめたが、あたしは自分のここぞと言う時の嫌な予感が当たるのをよく知っている。

「Aーーー！出てこーい！」

突然聞こえた心臓を突き刺すようなその声に縮み上がったあたしは、何故か冷静にも"ほらね"と思った。考えられないし理解は出来ないけど、ここで残念なお知らせ。こんな事するの確定で誰か検討つきます。

「誰かAの事呼んでない？」

あたしは後ろを振り返った友達の手を強引に引っ張って、頭を左右に振りながら走る。

「いや知らない。あたしの知り合いじゃない」

「ほら呼ばれるって」

「知らない知らない、人違いだと思う」

「でも苗字も合ってるし」

門前で騒ぐ声は確かにあたしの名前を何度も呼んでいる。でもフルネームを教えた覚えなどないし、それを言うなら学校の名前だって一度も出した事無いのに何故。

「絶対知らない！！」

そう叫んで正門の前を走り抜けた。結局あの後無視を貫き通して売店に飛び込んだからどうなったのかは知らないけれど、あたしは改めてあの人達の頭のおかしさを再認識した。

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