31.今だ!私のターン! ページ31
決めたのなら善は急げだと、リビングを出て行ったジン君を追った。あたしが追いかけて来ている事に気付いているはずなのに、振り返ろうともしない彼の背中にあたしは言う。
「あたし、此処に住む」
そう告げれば、ゆっくりとこちらを振り返った彼があたしの目をじっとりと見据えて尋ねてくる。
「…何の心変わり?」
気怠そうな彼の表情が気に喰わなかったし言いたい事は沢山あったけど、あたしは"困ってるの"と返した。
「実際行くとこ無いし」
「あんだけ嫌がってたのに?」
「あの時あたしは、普通の人間として当たり前の反応をしてただけ」
「……………」
少しばかり黙り込んだジン君だけど、また直ぐにいつもの悪戯っ子みたいな微笑みを取り戻す。
「まぁ…理由はどうであれ、俺の思う通りになったのなら良いよ」
そのチクチクとした物言いがあたしの心をザワつかせる事を彼は知っている。知っていてあえてそんな口の利き方をするのだ。苛立ちを強引に飲み込んだあたしは用意していた言葉を吐き出す。
「その代わり」
「なに。
「今回はあたしの不戦勝だけど。今後あたしの事好きになったら、あなたの負け」
「………………は?なに、誰が?」
「負けたままは嫌だけど、何も持って無いあたしが今出来る勝負事ってそれしか無いから」
唐突なあたしの台詞に一つ間を置いて目を丸くした彼を指差せば、途端に彼は頭のネジが弾けたように大きな声で笑い出す。廊下にぐわんと響く彼の楽しそうな声に、言い出しっぺのあたしの方が驚いた。何がそんなにウケたのか、腹を抱え体勢を崩したジン君は暫くゲラゲラと笑ったあと、ゆらりと顔を上げて息を短く吐く。
「ああ…バカみてぇ、ほんと」
流れた涙を手の甲で拭った彼はニヤリとほくそ笑んで小さく呟いた。
「いいね、それ」
「……………」
「廊下の突き当たり一番奥」
なにかの呪文のような言葉の後、"部屋"と付け足した冷静沈着かつクールな彼。それがまたとてつもなく悔しくて「余裕ぶっこいてられんのも今だけだから!」と滅茶苦茶に虚勢を張った。そんなあたしの負け犬の遠吠えも見透かしたのか、余裕綽々な彼は微かに口角を上げてあたしに背中を向ける。
「楽しみ」
顔を見るまでもなく、ウキウキとした様子が声色から伝わってきた。後ろ髪を引かれたような気持ちを残したまま、勢いに任せて"凄い事言ってしまった"とあたしは早くも後悔しかけていた。
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匿名(プロフ) - 湯豆腐さん» とても嬉しいコメントありがとうございます^ ^ なかなか試行錯誤しておりますが、私なりの彼等を楽しんで頂ければと思います。お話いっぱいになり移行しましたので、次も末永く応援頂けると嬉しいです! (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 花恋さん» お返事大変遅くなりました。時間が空きながらの更新ですが、それでも楽しみにしてくれる方々にとても感謝しております。またお話増えましたので、お時間ある時にでもちらりと覗いてみて下さい^ ^ お待ちしてます。 (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - なななさん» お返事大変遅くなり申し訳ないです。応援ありがとうございます!時間が出来また更新し始めたので、これからも気長に見守って頂ければ嬉しく思います^ ^ (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 夜星さん» お返事大変遅くなってしまいました。最近時間が出来たのでゆるゆると更新しております。暇な時にでも覗きに来ていただければ幸いです^ ^ (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
湯豆腐(プロフ) - 匿名さんがかくジンくんとマホトくんが一番好きです。匿名さんも大好きです。これからも応援してます! (2018年4月25日 19時) (レス) id: 65ae9a78b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名 | 作成日時:2017年7月10日 7時