16.女の子は強い ページ16
鼻の奥がツンとしてくる。あまりに呆気ない別れで、やはり馬鹿げているなと思った。走馬灯のように彼の顔が脳内を駆け巡る。一緒に買いに行った家具や貰ったネックレス、お揃いのスニーカー、あたしはもう二度とあの部屋に入る事はないのだ。不思議と名残惜しさは微塵も無い。だけど”何か少し”と思って振り向きかけたあたしの肩を、ジン君が引いたのでもう後ろを見ることは無かった。
「とりあえず前見て歩け」
俯きかけたあたしに、彼はそう言った。下を向くなと繰り返し言う。
「どうしよう、悲しく無いのに泣きそう」
「泣いてもいいから前見てろ」
彼のいう通り、あたしは真っ直ぐ前を見ながらポロポロと涙を流した。頰や顎を伝って水が地面に落ち、淡い香水の匂いがする彼は強めに肩を抱く。やっぱり悲しくは無いのだけれど、終わったなという実感はあるのだ。何かがプツリと音を立てて終わった。その感覚が妙に不気味で怖かったのだと思う。
「大丈夫、ですか」
彼の部屋の前に連れてこられたあたしは、何故か玄関へ出てきていた渡邊さんから不安気にそう尋ねられた。
「……………」
大丈夫、とは言えなかった。それを見た彼は赤ちゃんみたいな丸い瞳を心配そうに揺らす。
「…ここじゃ落ち着かないんで、とりあえず中入りません?」
「……いや、いいです。帰ります」
「帰るって…夜中なんだけど。家どこなの?」
尋ねられて少々迷ったが、ここから車で二時間程かかると伝えれば、考える間もなく止められた。だけど知らない人の家に入るのは抵抗がある。どうぞと玄関の扉を大きく開けた渡邊さんへあたしは頭を左右に振った。
「本当に結構です…スマホはポケットに入ってたし、タクシー拾ってその辺のホテル泊まるんで」
「女の子1人じゃ危ないよ」
顔を歪めた渡辺さんへ「大丈夫」と言いかけたあたしの手を強く引いたのはジン君だった。
「もういいから入れや」
ぎょっとしたあたしだが、そんなのもお構いなくで半ば強引に家に連れ込まれる。
「待って、離して、本当に大丈夫だから」
「裸足でどこ行くんだよ」
言われて初めて、自分が裸足で家から出てきたことを思い出す。思わず黙り込めば彼は「邪魔だからさっさと入れ」と背中を押した。焦ったあたしは警戒心剥き出しで彼を振り返る。でもジン君は淡々とした顔でこちらを見下ろすのだ。
「被害妄想なら好きなだけしても良いけど、別に何もしねぇぞ」
「…………」
「ただ単に泣いてる女、外にほっぽり出すなんて後味悪いから」
それだけと付け足した彼に、あたしの視界は沢山の水分でぐにゃりと歪んだ。
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匿名(プロフ) - 湯豆腐さん» とても嬉しいコメントありがとうございます^ ^ なかなか試行錯誤しておりますが、私なりの彼等を楽しんで頂ければと思います。お話いっぱいになり移行しましたので、次も末永く応援頂けると嬉しいです! (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 花恋さん» お返事大変遅くなりました。時間が空きながらの更新ですが、それでも楽しみにしてくれる方々にとても感謝しております。またお話増えましたので、お時間ある時にでもちらりと覗いてみて下さい^ ^ お待ちしてます。 (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - なななさん» お返事大変遅くなり申し訳ないです。応援ありがとうございます!時間が出来また更新し始めたので、これからも気長に見守って頂ければ嬉しく思います^ ^ (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 夜星さん» お返事大変遅くなってしまいました。最近時間が出来たのでゆるゆると更新しております。暇な時にでも覗きに来ていただければ幸いです^ ^ (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
湯豆腐(プロフ) - 匿名さんがかくジンくんとマホトくんが一番好きです。匿名さんも大好きです。これからも応援してます! (2018年4月25日 19時) (レス) id: 65ae9a78b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名 | 作成日時:2017年7月10日 7時