45.彼じゃない ページ45
SIDE.MAHOTO
「ジン君……？」
涙目の彼女にそう尋ねられた。俺は何も言わず男に目をやったが、頭をどこかにぶつけたのかそいつは全く動かない。男から視線を逸らし彼女を抱いたまま部屋出て、下の階まで静かに降りた。Aちゃんの体は異様に軽いのに、でも酷く全身の筋肉が強張って鉛のように重くも感じた。俺は靴の並ぶ玄関に彼女をゆっくりと降ろす。
「……渡邊さん」
腰が抜けたのか立ち上がれずにしゃがんだままの彼女。小さな声でそう言ったAちゃんの手を確認した。皮膚が赤くなってるけど、見る限りでは折れたりしていないみたいだった。
「絶対出てこないでね」
それだけ言って、俺は家を出た。そして鍵を閉めて、また上の階にあがる。男の家に戻り、クローゼットに掛けてあった服も、棚の中も全部全部持ってきた袋にまとめて外に出した。洗面所や風呂場、トイレも覗いて女物っぽいものは全て袋に放り込んだ。全ての部屋を回り終え、俺は彼女の私物が入った袋を何回かに分けて家へ運ぶ。全部Aちゃんの部屋にまとめて置いた後、俺は携帯を取り出して１１９に電話した。男の家の住所と怪我の内容を伝え通話を切り、やっとリビングに戻る。
Aちゃんはソファーに座って手を氷で冷やしていた。こちらに近寄ってきたジンが「男どこにいんの？」と尋ねてくる。俺は頭を左右に振った。
「気絶してる」
「もう二、三発殴ってくる」
「動かない奴殴ってどうすんだよ」
そう言えば、彼は怪訝な顔をしてから苛立った様子でタバコの箱を掴みリビングを出て行った。ソファーに座る彼女に視線をやった俺は、何と声を掛けていいのか分からずとりあえず少し離れた所に腰掛ける。するとこちらを向いた彼女が俺に頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとうございます」
「…いや」
「めっちゃ怖かったです。渡邊さん来なかったらあたし終わってましたよね」
顔を上げたAちゃんは笑っているが、氷を握る手は微かに震えている。何も言わずに彼女を見つめていれば、笑顔だった彼女は途端に顔を歪めて耐え切れずに下を向いた。
「ほんとうに怖かった」
小さな声でそう言った彼女は、言葉を途切らせる事なく続ける。
「……ごめんなさい。助けて貰っておいて、こんな事頼むのもあれなんですけど」
「うん」
「…意味は全く無いです。意味なんて何も無いんで、抱きしめてくれませんか」
彼女の言葉が終わると同時に、Aちゃんの体を自分の方に優しく抱き寄せた。俺の服を掴んで胸元に顔を埋めた彼女の小刻みに震える肩を抱き、俺は目を閉じて静かに時間が経つのを待った。
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匿名(プロフ) - 湯豆腐さん» とても嬉しいコメントありがとうございます^ ^ なかなか試行錯誤しておりますが、私なりの彼等を楽しんで頂ければと思います。お話いっぱいになり移行しましたので、次も末永く応援頂けると嬉しいです！ (2018年4月26日 21時) (
レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 花恋さん» お返事大変遅くなりました。時間が空きながらの更新ですが、それでも楽しみにしてくれる方々にとても感謝しております。またお話増えましたので、お時間ある時にでもちらりと覗いてみて下さい^ ^ お待ちしてます。 (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - なななさん» お返事大変遅くなり申し訳ないです。応援ありがとうございます！時間が出来また更新し始めたので、これからも気長に見守って頂ければ嬉しく思います^ ^ (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 夜星さん» お返事大変遅くなってしまいました。最近時間が出来たのでゆるゆると更新しております。暇な時にでも覗きに来ていただければ幸いです^ ^ (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
湯豆腐(プロフ) - 匿名さんがかくジンくんとマホトくんが一番好きです。匿名さんも大好きです。これからも応援してます！ (2018年4月25日 19時) (レス) id: 65ae9a78b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：匿名
| 作成日時：2017年7月10日 7時
