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急いでAを追いかけた。
家に着く前に追いつけなかったが、帰る場所が同じだし、アイツは真面目で素直なので、何も言わずに寄り道なんてしない。
家に着き、靴を脱ぎ捨て、Aの部屋のドアを開けた。
着替えている最中だったようで、Aはブラウスのボタンを外していた。
顔を真っ赤にして怒るAを、ベッドに押し倒す。
Aが俺を拒絶する筈がない。
アイツだけが、実力に見合った評価を俺にしてくれた。
アイツだけが、きっと柱になれると……
「＊＊＊」
Aが知らない男の名前を呼んだ。
誰だよ、そいつ。
＊＊＊って誰だよ。
男でもできたのか？
そんなの、あってたまるか。
他の男に取られるくらいなら、俺が壊してやる。
壊れてしまえばいい。
もがくAに顔を近づける。
さっきまで怒って顔を真っ赤にしていたのに、今は顔が真っ青じゃないか。
お前の顔色、信号機かよ。
「や、やめてっ……」
顔の半分以上を食われたAが、涙を流しながら俺を見た。
頭に激痛が走り、両目を瞑って、こめかみを押さえる。
痛みはすぐに治った。
目を開けると、嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる半裸のAが、俺に押さえつけられていた。
顔は、どこも食われていない。
さっきのは……何だ？
幻覚か？
Aが浅い息を繰り返す度に、俺の口元に、生暖かい息がかかる。
「A」
名前を呼ぶ。
Aは返事をしない。
何でだよ……
悪かったって。
だって、お前が、俺から逃げるから……
独りになるって、思って……
視界が滲み、喉の奥がつっかえる様な感覚がする。
「A」
俺は名前を呼びながら、シーツに顔を押し付けた。
シーツが涙で濡れる。
早く、思い出せよ。
兄妹だから、結婚はできないから諦めるけど。
俺は、ずっとお前と一緒に居たいんだ。
約束しただろ？
何で、約束を取り付けたお前が、忘れてんだよ……
肩を震わせて泣いていると、Aが俺の頭を撫でた。
「……＊＊＊」
優しく男の名前を呼ぶA。
腹立たしかった。
その名前の男に殺意が湧いた。
誰だよ、＊＊＊って。
何で俺の名前を呼んでくれないんだよ……
俺は涙を拭って、Aから離れた。
「……誰だよ……＊＊＊って」
俺の言葉を聞いて、Aは目を見開いた。
そして、また泣き出した。
まさか泣くとは思わなかった。
俺は自分の服の袖で、Aの涙を拭う。
「泣きすぎだ、馬鹿」
俺が鬼になっても泣かなかったくせに。
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作者名：そうや | 作成日時：2020年9月27日 15時
