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大量に出る唾液を飲みこみ、雪村さんから目を逸らす。
頭がボーとする。
肉を食べたい。
「Aさんは元気？」
雪村さんの質問に、俺は首を横に振った。
「そう……でも、退院できたもの。きっと、すぐに良くなるわ」
目が覚めてすらいないのに、良くなるわけないだろ。
「あっ、そうだ！＊＊＊くんの好きな食べ物がわからなかったけど、よかったらこれ食べて」
と、紙袋を渡された。
中身を見ると、元クラスメイトがお見舞いの時に持って来てくれたものと同じ店のお菓子だった。
頭を下げると、雪村さんは小さく笑った。
「このお店のお菓子、有名なんだって。きっとAさんも喜ぶわ」
食えねぇよ。
鬼だから。
でも、せっかく買って来てくれた物なのだ。
受け取っておこう。
「＊＊＊くんは、Aさんがとっても大切なのね」
当たり前だ。
「先生にもね、妹がいるの。自慢の妹が」
そうかよ。
「妹、可愛いわよねぇ」
妹じゃない方がいい。
妹だったら、結婚できない。
手が出せない。
Aだって、俺を「兄」としか見ないのだ。
俺も、Aを妹として見ていることに腹が立つ。
Aは妹じゃないだろ。
俺を唯一見てくれる、人間だっただろうが。
「＊＊＊くんはAさんと仲が良くて有名なんだってね」
どこ情報だろうかと疑問に思ったが、まぁ椚ヶ丘の生徒はほとんどが知っているだろ。
「うちのクラスでも、知らない人は居ないの」
だろうな。
「いつでも、登校して来ていいからね？ホームルームだけでも」
それはできない。
外に出た途端、人を襲いそうだ。
首を横に振る。
「外にも出れない？」
頷く。
「そっかぁ……髪色が派手な子もいるから、そんなに目立たないと思うけど……」
この人の目は節穴なのだろうか？
俺の顔……首から上なんて、普通とはかけ離れてるんだぞ？
髪色が派手な奴の隣に並んでも、俺の方が怪しさで浮くだろ。
脳内で突っ込んでたら、雪村さんのスマフォに着信が入った。
「あ、いけない。もうこんな時間だ」
雪村さんは慌てて立ち上がった。
「済みません、これから予定が入っているので。また来ますね」
慌てて家から出て行く雪村さん。
ほら、やっぱり、誰も俺を特別扱いしてくれないじゃないか。
教師に何を期待してるんだ？
一人で、三十人もの生徒に勉強を教えるんだぞ？
育手の爺でさえ、カスを優先してたんだ。
俺を見てくれる奴が居ない。
Aは今日も眠っている。
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作者名：そうや | 作成日時：2020年9月27日 15時
