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何も無いまま、Aが目覚めないまま、俺は三年生になった。
父親が家にいるのは、仕事から帰って、飯を食って、寝るためだけ。
母親は、眠っているAに愚痴を零しながら、Aの世話をする。
調べても何も得られなかった。
隣町の図書館にも行った。
何も無かった。
出来る限りの事はやって来た。
でも、鬼殺隊はおろか、鬼の情報でさえ、手に入らなかったのだ。
疲れた。
何もかもがどうでも良くなった。
もういっその事、両親を食って、Aを連れて逃げてしまおうか……
「初めまして。私は雪村 あぐりです。君達の担任です」
目の前に、黒髮の知らない女。
母親にリビングに来る様に言われたと思ったら、家庭訪問かよ。
「＊＊＊くん、調子はどう？」
口を開けば涎が出るので、首を横に振る。
雪村さんは眉を下げた。
「お母様から聞いたんだけど、ご飯も食べてないのよね？」
食べれるわけないだろ。
口に入れた瞬間、吐き出すのだ。
「＊＊＊くんは、どんな食べ物が好き？」
俺は答えずに、自分の足元を見る。
隣に座る母親は、オロオロしていた。
「……＊＊＊くん、お話は難しそうかな？」
雪村さんが、首を傾げる。
「難しいか」
諦めたのか、雪村さんは苦笑し、立ち上がった。
もう来ないだろ。
浅野も、一度来たっきりだったし。
元クラスメイトのアイツは、メールすら送って来ないし。
そう思ってたのに、翌日、また雪村さんが来た。
「こんにちは、＊＊＊くん。昨日、学校からのプリントを渡しそびれてて……」
あぁ、それでわざわざ来たのか。
雪村さんが鞄から取り出したプリントを受け取る。
「わあ、＊＊＊くん、爪にマニキュア塗ってるの？黒が好きなんだね」
違う。
これは鬼になった時に色まで変わったんだ。
それを説明しても意味はないので、何も反応は示さない。
雪村さんは母親に勧められ、家に上がった。
俺と話す気でいたのだろう。
雪村さんは、笑顔で俺にいろいろな話をふる。
母親は、自室へ篭った。
きっと、自分がいるせいで、話をしないと思っているのだろう。
昨日は何を食べた？だの、
いつも何時に寝ているの？だの、
くだらない内容を聞いてくる。
「妹さんが居るよね？＊＊さん、退院してるって聞いたんだけ＿＿＿」
「A」
「え？」
「アイツの名前」
違う。
＊＊じゃない。
Aなのに。
「……そう、Aさんっていうのね」
雪村さんは、優しく微笑んで目を伏せた。
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作者名：そうや | 作成日時：2020年9月27日 15時
