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異常な空腹を感じながら、Aを抱えなおす。
元クラスメイトに電話をしたら、すぐに駆けつけてくれた。
警察と救急車が来て、俺とAは病院に運ばれた。
手術をしている最中に、俺の傷口は完全に塞がったみたいだ。
俺が手術中に目を覚ましてしまい、俺の傷口を縫っていた医師が、これでもかと目を見開いていた。
取り敢えず手術は強制終了された。
俺は病室に移動させられる。
腹が減った。
薬品の独特の匂いの中に混じった人間の匂いが、食欲を増幅させている。
顔面蒼白だった両親が、起きている俺を見て泣き崩れていた。
「Aは？」
俺がそう訊ねると、両親はまた泣いた。
あぁ、そうだった。
この二人の前では、Aの名前を呼んではいけなかったんだ……
思い出すのが遅い。
カウンセリングを受けることになった。
俺は、Aの容体が気になってそれどころじゃない。
健常者の返答をすれば、特に異常は無いと言う事で、すぐに終わった。
「初めまして。俺は柳沢」
病室に戻ると、知らない大人が居て、そいつはそう言った。
「今、とある実験をしていてね。君の話を友人である医師から聞いて、興味が湧いたんだ」
猫を被りきれてないこいつは、自分が胡散臭い奴だと自覚していないのだろう。
両親と、検温をしに来た看護師が病室に入ってくる。
「血中酸素濃度を測りたいんですけれど……えっと、爪を切ってもらっていいですか？」
と、看護師に爪切りを渡された。
俺の爪は、黒く、鋭く、長かった。
見覚えがあった。
鬼になった後の、俺の手だ。
母親に頼んで鏡を借りた。
化粧品についてる鏡に映ったのは、普通は白目である筈の所が黒くなり、頰に痣が浮かび上がり、耳がエルフの様に尖った、鬼の姿の俺だった。
口を軽くひらけば、鋭い八重歯……基、牙が見える。
包丁で刺された傷が塞がったのも、この異常な空腹も、全て、コレが原因だ。
鬼だと自覚した途端、飢えで気が狂いそうになる。
「＊＊＊？」
母親が、心配そうに俺の顔を覗き込む。
口を開いたら、この人を食ってしまいそうだ。
下唇を噛み締め、自分の爪を切る。
下唇が歯で切れてしまったのか、口の中に鉄の味が広がる。
自分の血を舐めて、気休め程度に飢えを凌ぐ。
小さな機械が俺の指を挟む。
検温等の健康観察を終えた看護師は、次の仕事があるので、さっさと病室から出て行った。
柳沢とかいう男が、俺の近くに椅子を持って来て、座る。
さっさと帰れよ……
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作者名：そうや | 作成日時：2020年9月27日 15時
