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俺の頬に、Aの手が触れる。
震えているその手を握った。
Aの爪が、長い。
短かった筈だ。
危ないし、伸ばす理由も特に無いから、Aは爪を短く切っていた。
今は、爪はどうでも良い。
刺された所をどうにかしねぇと……
Aが咳き込んだ拍子に血を吐く。
「た、す……け……」
消え入りそうなAの声。
俺は手に力を込めた。
「喋るな。助けるから」
泣きそうになる。
また独りになってしまう。
いやだ。
いやだ。
Aと、一緒に居るんだ。
血まみれのAの胸元を押さえる。
血が止まらない。
傷が深いし、多い。
だめだ。
だめだ。
このままでは、Aは＿＿＿
「かいが、く」
自分の耳を疑った。
顔を上げる。
色彩が反転したAの瞳が、瞼によって隠された。
俺は嬉しさのあまり、口角をあげた。
Aが、俺の名前を呼んだのだ。
ずっと、待ち望んでいた。
やっと……
聞き間違いじゃ無い。
だって、ちゃんと聞こえたのだ。
俺を「獪岳」と、呼んだ。
待ってろ、A。
お前を絶対に＿＿＿
「ガハッ！？」
口から、少量の血が出た。
瞬間、背中にじんわりと何か生暖かいものが広がっていく感覚。
「ぐっ……」
ズルリと、背中から抜かれる。
刺されのだと認識したら、また刺された。
Aを抱きしめて、振り返りざまに後ろに居る奴の足を払う。
血濡れた包丁を持った男が、起き上がろうとしていた。
誰だ？
知らない。こんな奴。
こいつが、Aを……？
息をするたびに、肺がゴロゴロと音を立てる。
呼吸で止血をしようにも、傷が深くてできないし、傷口から血が流れていく。
「さ、触るな！その子は、僕のだ。僕と目があったら、恥ずかしそうに目をそらして……ふふっ、照れて、可愛くて……」
男が何か言ってる。
「僕のにしようと思ったら、嫌がって……だから、脅して、言う事聞かせようとしたのに……」
こいつが、こいつが……
刺された傷の痛みも薄れ、身体中が熱くなった。
男が包丁を振りかざして、俺に襲いかかってくる。
それすらも遅く見えた。
男の腹を蹴ってやれば、男は数メートル吹き飛び、木の幹に背中を打ち付けて気絶した。
俺はAを横抱きし、立ち上がる。
アドレナリンが出て居るせいか、痛みも無く、体も軽い。
足はフラつくが、歩くのに何も問題は無い。
戻らないといけないのに、木の影から、出れなかった。
この先に行けない。
本能が、行っては駄目だと、警告している。
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作者名：そうや | 作成日時：2020年9月27日 15時
