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浮き輪を返却して、荷物をおいてある場所に戻る。
元クラスメイトが、着替えを済ませてそこに立っていた。
レジャーシートの上に、俺がAに渡したパーカーが畳んで置いてある。
しかし、肝心のAが居ない。
「あ、＊＊＊」
「Aは？」
「＊＊ちゃん？あの子なら、飲み物買いに行ったよ」
先に着替えとけば？と言われたので、言われた通り、着替える事にした。
シャワーを浴びて、更衣室に向かった。
「無事でよかったね」
「帰りに何か食べる？」
着替えて戻ったら、ツインテールが手厚く介抱されていた。
ツインテールは着替えを済ませて、落ち込んでいる。
Aだけが何故か、この場に居なかった。
「おい、Aは何処だ？」
遅い。
飲み物を買って戻って来て、それから着替えに行ったとしても、遅すぎる。
更衣室が混んでる時間帯じゃないだろ。
「誰だよ、Aって。さっきまで多川が大変な目にあってたのに、別の誰かの心配してんのか？」
一人が俺に苛立ちながら聞いた。
俺とそいつの間に、元クラスメイトが割って入る。
「まぁまぁ。＊＊ちゃんの事だよ。あだ名みたいなもんでさ〜」
あだ名じゃねぇよ。
「でも、＊＊ちゃん遅いね。探したほうが良いな」
「探してくる」
「＊＊＊、ちゃんとスマフォ持った？連絡とれる様にしねぇとさ」
「持ってる」
背を向ける俺に、元クラスメイトは「俺はあっち探してくるから！」と言った。
何処だよ、A……
苛立ちを隠しもせずに、俺は歩く。
自動販売機にも、海の家にも、何処にもAが居なかった。
元クラスメイトから電話がかかって来たが、見つからないらしい。
Aは財布だけを持って行ってしまったので、連絡がとれない。
「……？」
血の匂いがした。
潮の匂いに混じって、血の匂いがする。
鼻が特別良い方ではないのに、何故だ？
何故か、脈拍が上がり、喉が乾く。
迷いもなく、足を進める。
進む度に、血の匂いが濃くなっていく。
海水浴場から少し離れた、木の生い茂った場所。
昼間なのに暗いそこに、Aが居た。
「……A……？」
声をかけると、Aがゆっくりとこちらに振り返る。
滅多刺しにされたであろう、胸元が血で濡れ、水着に赤黒いシミが作られていた。
俺はAの元へ駆け出し、倒れそうになるAを抱きかかえる。
Aは涙の溜まった両目で、俺を見上げる。
その目は今にも閉じてしまいそうだ。
頼むから、死なないでくれ……
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作者名：そうや | 作成日時：2020年9月27日 15時
