約束したから (ページ2)

今日:6 hit、昨日:3 hit、合計:2,162 hit

＋1＋ページ2

俺には前世の記憶が有る。

前世では鬼を殺す仕事をしていた。
前世では、そんな仕事をしていたのに、俺は殺す筈の鬼になった。

アイツだけが、俺を受け入れてくれた。
鬼になった俺を、拒絶しなかった。

そんなアイツは、いつの間にか消えていた。
それに気が付いたのは、首を斬られ、落ちている時だった。

前世の記憶のせいか、俺の今の名前には違和感しかない。
両親が俺の為に初めてくれたものなのに、今の俺は、素直に受け入れられなかった。

今世では、親がいて、家もあって、食うのに困る事なんて何も無かった。

「次は一緒に居るからね」

と、前世で約束したAは、今世では俺の妹になっていた。
確かに、兄妹なら、否が応でも独立するまでは一緒に暮らす事になる。
同い年だが、俺が先に生まれたので、俺が兄で、コイツが妹だ。

しかし……妹か……

前世では「友達以上恋人未満」と言う中途半端な関係だった。
いずれ結婚したいと思ってた相手が、今世ではまさかの妹なのだ。

俺の望んだ展開じゃない。
ラノベみたいな兄妹愛なんて要らねぇんだよ。
普通に、血の繋がってねぇ状態の、男女の恋愛をよこせ。

「＊＊＊、ご飯食べないの？」

母親が、心配そうに俺の顔を見た。
俺は我に返り、手を合わせ「いただきます」と呟いた。
朝食を済ませ、自室に戻る。

着替えて、鞄を持って、部屋を出る。
リビングでは、Aが母親に髪を結ってもらっていた。
俺はAの隣に鞄を置いて、洗面所で歯を磨いた。

「＊＊は髪が綺麗ねぇ」

母親のご機嫌な声が聞こえる。

「＊＊＊が、髪を乾かしてくれるから」

これはAの声だ。

Aは前世の記憶が無い。
俺の名前を呼ばない。
俺の名前は＊＊＊じゃない。
Aは＊＊なんて名前じゃない。

身支度を終えた俺とAは、一緒に学校に登校する。
Aに変な虫がつかない様に。
Aが俺と離れない様に。

学校では一時期、ブラコンだのシスコンだの揶揄われていた。
それに対し、Aは「＊＊＊は心配性なだけだよ」と軽く笑っていた。
時間が経てば、そんな揶揄いを誰もしなくなる。
アイツ等はああいう距離感なのだと、納得している。

俺とAが大体一緒に行動しているので、俺達に恋人が出来た事は無い。
しかし、恋文を貰ったり、バレンタインでチョコを貰う事は多々ある。
A宛の恋文は全てシュレッダーで千切りにするし、A宛の食べ物は問答無用でゴミ箱行きなので安心して欲しい。