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カナエさんが気を遣って、先日親方様と話した客室で話をする様に言ってくれた。
先生と、向かい合うように座る。
先生は泣いているが、先程よりも落ち着いたらしい。
「先生、何があったんですか?私が、お寺を離れた後に」
先生は、私の質問を聞いて、一度目を瞑った。
そしてゆっくりと目を開ける。
「獪岳が、鬼と取引をしたらしい。寺に居る子供達を食わせる代わりに、自分を食わない様にと」
「……えっ?」
勾玉野郎が、鬼と……
と言うか、アイツ、鬼といつ遭遇したの?!
「Aが引き取られた当日の夜だった。皆が寝静まった後、獪岳が藤の花の香炉の火を消した」
淡々と、事実のみを伝える先生。
「しかし、光里がその事に気付き、獪岳と喧嘩になっていた。その時の声で、私や寺の子供達は起きたのだが……」
先生は至って平常心を保っている。
「丁度、鬼が寺に来てしまったのだ。獪岳は鬼に、香炉を消しておく様に言われてたらしい」
私は、何も言えなかった。
ただ黙って、先生の話を聞く。
「鬼は、Aが居なくて酷く怒っていた。きっと、Aを食いたかったのだろう」
鬼にモテても嬉しくねぇな。
「鬼は、光里が殺してくれた。しかし、元から年季の入ってた建物だ。鬼が暴れた為に、寺は壊れてしまった」
お寺、壊れたのか〜……
私は天井を見上げた。
私が疲れてふかふかのベッドで爆睡している間に、そんな大変な事があったのか……
「だいぶ簡潔に纏めたが……」
先生が一通り説明を終えたらしい。
私は先生に視線を戻す。
「その後は、どうなったんですか?」
「私は光里が呼んだ隠に頼んで、育手を紹介してもらった。子供達は、Aの様に一般家庭に引き取ってもらった」
手紙の返事が来なかった理由、それか〜……
引っ越したかぁ……
そりゃそうだよな。
「……」
私は額に手を当て、テーブルに肘をついた。
「あの、私、知らずに……ずっと、手紙を送ってたんです……」
「……そうか。済まない。Aの新しい家の住所が解らなかったんだ。何も、知らせられなかった」
目を伏せる先生。
いや、仕方ない。
仕方ないんだよ。
うん。仕方ない……
勾玉野郎がお寺の事を話したがらないのは、この件の所為か……
私は大きく息を吐く。
勾玉野郎って自分本位だったけど……
悪運が強いな、アイツ。
まぁでも、光里さんがどうにかしてくれたみたいだしなぁ。
流石だな、光里さん。
あの時から強かったのか。
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作者名:そうや | 作成日時:2020年8月14日 10時